水素ビジネスの分水嶺、事業継続が鍵を握る和田憲一郎が語るエネルギーの近未来(12)(3/3 ページ)

» 2015年05月11日 09時00分 公開
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採算を考慮した場合は300Nm3/hクラスが必要に

 現在、水素ステーション設置の際の補助金は、1時間当たり5〜6台の充填が可能な300Nm3/hが1つの閾値になっている。もう少し小規模なものでは、100Nm3/hクラスや移動式水素ステーション関する補助金カテゴリーも設けられている。そのため、こうした小規模な水素ステーションを建設することも可能であるが、将来的にFCVの普及が進んだ場合に採算が取れるのは300Nm3/hクラスの領域になると試算されている。

 FCVの普及が進むまでの初期段階では、小規模な水素ステーションの方が建設コストや用地確保の点から整備しやすく効果的とも考えられるが、100Nm3/hクラスの補助金を利用して建設されているのは移動式水素ステーション以外は見当たらない。これは、将来的な事業採算を考慮した場合に300Nm3/hクラスの規模が必要となることと、現在は水素の需要増加に応じて将来の設備増設に対する追加補助金が認められていないことなどが要因と思われる。

 いずれにしても、水素ステーションの設置台数に見合った台数のFCVが普及するまでの初期段階では、建設費、運営費の面から水素ステーションの建設・運営は厳しい状況は続くだろう。そのため国の継続的な支援と、自動車・水素インフラ企業の連携・協力した取り組みが必要である。

取材を終えて

 FCVや水素ステーションの普及を図ろうとすると、企業努力だけでなく、業界横断した普及推進団体の存在が鍵となる。その意味で、FCCJは業界を引っ張ってきたといっても過言ではないだろう。取材を終えて、筆者が気づいたことは次の点だ。

事業としての成立性

 FCCJが策定した「FCVと水素ステーションの普及に向けたシナリオ」では、FCVの普及に先だって水素ステーションの整備が進んでいくというストーリーとなっている。しかし現実には水素ステーションの整備が遅れている状況がある。その理由となるのは、設置費用が高く水素の価格も採算が取れるレベルでないため、さらに運営費用なども考慮した場合には当面赤字が続くことへのためらいであろう。

 一般的に、新規事業は3年間赤字が続くと事業の縮小や打ち切りなど、その方向性が見直されることが多い。東京オリンピック・パラリンピックに期待がかかるとはいえ、どうやって2020年までに水素ステーション事業を継続させるかが直近の課題ではなかろうか。

筆者紹介

和田憲一郎(わだ けんいちろう)

1989年に三菱自動車に入社後、主に内装設計を担当。2005年に新世代電気自動車の開発担当者に任命され「i-MiEV」の開発に着手。2007年の開発プロジェクトの正式発足と同時に、MiEV商品開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーに就任し、2009年に開発本部 MiEV技術部 担当部長、2010年にEVビジネス本部 上級エキスパートとなる。その後も三菱自動車のEVビジネスをけん引。電気自動車やプラグインハイブリッド車の普及をさらに進めるべく、2013年3月に同社を退社して、同年4月に車両の電動化に特化したエレクトリフィケーション コンサルティングを設立した。著書に『成功する新商品開発プロジェクトのすすめ方』(同文舘出版)がある。


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