そこで、広島大学の研究グル―プでは、水素化マグネシウムにおけるこれらの問題解決を目指し研究に取り組み、「コンバージョン反応」と呼ばれる充放電反応を改良することで、高い性能を発揮する全固体型リチウムイオン二次電池の負極材料を開発することに成功した。
研究グループは、広島大学大学院 総合科学研究科 准教授の市川貴之氏を中心とし、同大学 先進機能物質研究センターの特任助教 曾亮氏、教授の小島由継氏、同大学大学院 先端物質科学研究科 博士課程3年の川人浩司氏、同大学サステナブル・ディベロップメント実践研究センターの特任講師 宮岡裕樹氏との共同研究によるものだ。
今回の研究で採用した評価セルの模式図は図2の通りだ。
対極のリチウムと負極材料である水素化マグネシウム(MgH2)は固体電解質である水素化ホウ素リチウムをはさんで配置。充放電反応は以下の反応式となる。
MgH2 + 2Li+ + 2e- ⇔ Mg + 2LiH
この反応では、理論的に1kg当たり2000Ahの容量を示すことが期待されており、以前にも1kg当たり1480Ah程度の初回充放電試験を実現したことがあるという。ただ、充放電サイクルを繰り返すごとに容量が劇的に低下する問題を解決できなかったという。
今回の研究では、これまで有機溶媒を利用した一般的な構成ではなく、固体電解質(水素化ホウ素リチウム)を用いることで高温での特性評価を実現した。また、水素化マグネシウムと水素化ホウ素リチウムを複合化することで電極合材を作り、充放電サイクルを繰り返しても容量劣化が少なく、充電電位と放電電位の差が小さい電池セルを組み上げることに成功した。
これにより、水素化マグネシウムという新しく高容量が期待される負極材料を用い、固体電解質として水素化ホウ素リチウムを利用することで、分極電圧が低く、高い容量を示し、120度という高温でも劣化の少ない電池材料の開発を実現した(図3)。
現在注目されている二次電池には、モバイル機器や電気自動車に使われるリチウム電池と、太陽電池の出力平準化用途として期待されているNaS(ナトリウム硫黄)電池がある。リチウムイオン電池は80度以下の低温、NaS電池は200度以上の高温で利用される。
今回の研究の全固体型電池は、液体ではなく120度程度の温度の固体状態で動作するため、安全性が高く、リチウムイオンが伝導するために高い出力を実現する。さらに、これまででは難しかった高いサイクル性能を示し、充放電時の電圧差が低いという特徴を持つ。また、現在利用されているリチウムイオン電池の負極材料である黒鉛と比べると数倍の容量を示すため、より高性能な家庭用蓄電池を製品化できる可能性が生まれる。
今回の研究ではまだリチウム二次電池の要素技術を示したもので、実際の二次電池へと発展するためには、この負極材料と相性の良い正極材料を選定する必要がある。今後は、最適な正極材料を選出し、二次電池として最適な性能が得られるように研究開発を進めていくとしている。
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