ロシアの食糧課題をスマートアグリで解決、北海道で培ったノウハウが生きる自然エネルギー

気候変動が激しいロシア沿海地域では、年間を通じて安定的に野菜を生産する手段の確立が重要政策として掲げられている。同じ寒冷地帯の北海道苫小牧市でスマートアグリプラント事業を展開しているJFEエンジニアリングは、同事業のノウハウ活用してこうした課題の解決に取り組む。

» 2015年06月19日 13時00分 公開
[陰山遼将スマートジャパン]

 JFEエンジニアリング(以下、JFE)は2015年6月18日、ロシア沿岸海地方政府と共同でロシアの沿海地方におけるスマートアグリプラント事業の策定に合意したと発表した(図1)。同社は2014年8月から北海道苫小牧市で、天然ガスや木質バイオマスをエネルギー源として活用するスマートアグリプラント事業に取り組んでいる。こうしたノウハウを同じ寒冷地帯に属するロシアの沿海地方でも展開していく方針だ。

図1 JFEエンジニアリング 取締役副社長の加門洋一代氏とロシア沿海地方農業食糧局 局長のボチカリョフ氏

 ロシア南東部に位置する沿海地方はモンスーン気候帯に属している。冬季は大陸性気候の影響を受けて気温が低く乾燥した晴天が続くが、夏は一転して海洋の影響を受け高温多湿な気候になる。沿海地域の中心都市であるウラジオストクの平均気温をみると、1月は氷点下13度なのに対し7月は17度で、中には30度を超える日もあるなど、気温だけ見ても非常に大きな寒暖差がある。

 こうした気候特性を持つロシア沿海地方では、夏季は同地域で生産した野菜を供給している。しかし気温が低下する冬季に野菜を栽培することは難しく、さらに温室栽培なども行われていない状況にある。こうした背景からロシア沿海地方政府は、地元で生産した野菜を一年を通じて安定的に供給できる温室栽培の推進を重要政策に掲げている。そこでロシア沿海地域の中心都市であるウラジオストクとほぼ同緯度に位置する苫小牧市で、スマートアグリプラント事業を展開しているJFEとの提携を決めた。

 JFEのスマートアグリプラント事業は、技術提携先であるオランダのPriva社が持つ高度栽培制御システムに、JFEが保有する天然ガスやバイオマス、太陽光、地熱などのエネルギー利用技術を組み合わせている。地域の気候やエネルギー事情に応じた栽培システムを構築できるのが特徴だ。

 同事業の第1号となる苫小牧市のスマートアグリプラントでは、天然ガスに加え苫小牧市周辺で手に入りやすい木材チップを活用したバイオマスをエネルギー源として、ハウス農業に必要な熱と電力、CO2などを供給している(図2)。2015年11月からは地域特性を活用して温泉熱も活用していくという。現在、同プラントではトマトとベビーリーフの生産を行っており、収穫したものは北海道内の小売店で販売している。

図2 苫小牧で行っているスマートアグリプラント事業の概要 出典:JFEエンジニアリング

 今後JFEとロシア沿岸海地方政府は専門のワーキングチームを設置し、こうした苫小牧市での栽培実績やノウハウをベースに、沿海地域の気象条件、エネルギー源などに最適なアグリプラントのモデルを策定していく方針だ。

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