震災前にも電力会社の燃料費が急増したことがあった。リーマンショックが起こった2008年度と前年の2007年度で、2年間に2兆円も増加した(図4)。原油の価格高騰が原因だ。それにつられてLNGと石炭の価格も高くなったが、原油に比べると値上がり幅は小さかった。
過去15年間の化石燃料の輸入価格を見ると、原油は2004年から上昇傾向を示していた(図5)。2006年には2003年までの水準から3倍にもなっている。LNGも原油に連動して上昇してきたが、発電効率の改善が進み、電力を作るコストは石油ほど上がらなかった。一方で石炭は低めの価格で安定している。
すでに10年前の時点で、石油火力を縮小する方向性は見えていた。それでも電力会社の多くは石油火力を温存して、発電効率の高いLNG火力やコストの安い石炭火力へ移行することを怠ってきた。燃料費が増加しても電気料金を値上げできる「総括原価方式」の弊害だ。その点では電気料金を自由に設定できる小売全面自由化までに15年以上を費やした政府の責任も重い。
電力会社は震災後に急速に膨れ上がった燃料費を電気料金の値上げだけではカバーできず、巨額の赤字を出す事態に陥ってしまった。10社の経常損益を合計すると、2011年度に1.2兆円、2012年度には1.4兆円を超える損失を計上した(図6)。2013年度になると値上げの効果で損失額が縮小して、2014年度には10社の合計で黒字に回復している。
各社の2014年度の決算を見ると、燃料費の低減効果が表れている。米国のシェールガスの生産量が拡大した影響から、2014年度の後半に入って原油とLNGの価格が一気に下落したためだ。中でも発電効率の高いLNG火力や石炭火力へ移行を進めてきた電力会社の業績回復は早かった。結局のところ、2014年度も赤字を出し続けたのは、石油火力と原子力の依存度が大きい関西電力と九州電力の2社だけである。
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