第1世代の発電設備で効率を上げる、高温・高圧・高湿の限界まで火力発電の最新技術を学ぶ(2)(1/2 ページ)

火力発電の能力はタービンを回転させる蒸気やガスの温度で変わる。現在の石炭火力は600度の蒸気で発電する「USC」が主流だが、700度に高めた「A-USC」が2016年度にも実用化できる見通しだ。LNG火力では排熱を利用して高湿の空気を加える「AHAT」が2020年代に普及する。

» 2015年08月11日 15時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

第1回:「次世代の発電効率は3割アップ、燃料費とCO2を減らす」

 発電機を1つだけ使う第1世代の火力発電設備で効率を上げるためには、タービンの回転数を増やす必要がある。蒸気タービンで発電する石炭火力では、発生させる蒸気を高温・高圧にすれば、タービンの回転数が増えて発電能力が向上する。

 同様にLNG(液化天然ガス)を燃料に利用する火力発電でも、ガスの燃焼温度を高くできるとタービンの回転数が増える。ただし現在のLNG火力は1500度くらいの燃焼温度になっていて、さらに温度を上げることは簡単ではない。第1世代では蒸気の活用法が効率向上のカギを握っている。

 石炭火力には「超々臨界圧(USC:Ultra Super Critical)」と呼ぶ発電技術がある。ボイラーで高温・高圧の水蒸気を発生させてタービンを回転させる方法だ。最新の石炭火力発電所ではUSCが主流である(図1)。

図1 第1世代の火力発電技術(画像をクリックすると拡大して関連情報を表示)。出典:資源エネルギー庁

 現在のUSCよりも蒸気の温度と圧力を高くできる方法が「先進超々臨界圧(A-USC:Advanced-USC)」で、すでに実用化を目前にしている。LNG火力でも高温の蒸気を加えて発電効率を向上させる「高湿分空気利用ガスタービン(A-HAT:Advanced-Humid Air Turbine)」の技術開発が進んでいる。

A-USCは3段構成のタービンで発電

 最初にUSCの発電方法から見ていこう。USCでは石炭を効率よく燃焼させて温度を高めるために、石炭を細かく粉砕して、微粉炭にしてから燃焼させる。ボイラーで微粉炭を燃焼させながら、給水ポンプから水を供給して高温・高圧の水蒸気を発生させる仕組みだ(図2)。

図2 USCの発電設備。出典:資源エネルギー庁(石炭エネルギーセンターの資料をもとに作成)

 標準的なUSCでは蒸気タービンに送り込む水蒸気の温度は600度くらいになる。圧力は25MPa(メガパスカル)程度で、およそ250気圧に相当する大きさだ。これに対して最新のA-USCでは水蒸気の温度を700度以上に、圧力も1.4倍の35MPaまで上昇させる(図3)。

図3 A-USC(上)とUSC(下)の発電設備の比較。出典:資源エネルギー庁

 蒸気タービンは2段階で構成する方式が一般的だが、A-USCになると3段階に増える。最初の水蒸気で高圧タービンを高速に回転させた後で、少し温度が下がった水蒸気で中圧タービン、最後に低圧タービンを回転させて発電する。その途中でボイラーの排熱を利用して水蒸気の温度を引き上げる方法もある。3段階のタービンで発電できるために効率が高くなるわけだ。

 火力発電の効率は燃料の熱エネルギーを電気エネルギーに転換できる割合で表す。USCの発電効率は40%程度だが、A-USCになると46%程度に向上する。それに伴ってCO2(二酸化炭素)の排出量は15%ほど少なくなる。すでにA-USCの技術は2016年度にも実用化できる見通しが立っている。

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