今回の研究は、ペロブスカイト太陽電池の「原子レベル機構の解明」を行うもので、物質・材料研究機構(NIMS)国際ナノアーキテクトニクス研究拠点のグループリーダー館山佳氏、ナノ材料科学環境拠点のポスドク研究員の春山潤氏らの研究グループで行われた。
同研究では、第一原理計算と反応経路の探索手法を組み合わせ、メチルアンモニウムヨウ化鉛(CH3NH3PbI3、以下MAPbI3)とホルムアミジニウムヨウ化鉛((NH2)2CHPbI3、以下FAPbI3)という代表的なペロブスカイト材料内の、空孔を介したイオン拡散メカニズムについて調べた。その結果、末に予測されていたヨウ化物イオン(Iー)に加えて、これまで注目されて来なかった陽イオン分子(MA+など)も容易に拡散し得ることを世界で初めて証明できたという。
図2は、MAPbI3内におけるMA+イオンとIーイオンの拡散経路の模式図である。今回の研究では、ヨウ化物イオンはMAPbI3、FAPbI3ともに、拡散障壁が約0.45eVで、この値はヨウ化物イオンが室温で容易に移動することを示している。さらにMA+イオンが0.57eV、少し大きいFA+イオンが0.61eV程度の拡散障壁しか持たないことが分かった。
この値は、通常のイオン伝導体と比較しても小さい方であり、陽イオン分子も容易に拡散することを示す。これまで陽イオン分子のペロブスカイト構造内での回転についてはよく議論されてきたが、今回の理論計算により回転に加えて空孔媒介により隣のAサイトに容易に移動することが証明された。これは発電時にペロブスカイト材料に電場が誘起される際にさらに促進されることが予想できる。
ペロブスカイト構造Aサイトの陽イオン分子は、ペロブスカイト構造のサイズを決める役割を持つことが知られており、陽イオンの移動・流出・流入は、ペロブスカイト材料の安定性に大きなダメージを与えることが予測できる。つまり、早い劣化や変換効率測定におけるヒステリシス出現の、原子レベルでの主要な起源が、この陽イオン分子の拡散であることが証明できたということになる。
さらに今回の研究では、陽イオン分子をよりサイズの大きいものに置換して拡散を抑制するといった方向性が、劣化やヒステリシスの抑制に有効であることを提案している。また媒介する空孔数を減らした結晶性の良い粒の生成も重要であることも指摘。陽イオンを容易に拡散させないための研究開発を進めることで、劣化速度やヒステリシスの軽減を実現できると示唆している。
今後は大気環境下や連続光照射下など、より実用的な条件における耐久性、安定性について、現在NIMS内で進んでいる新規ペロブスカイト太陽電池開発の実験研究と連携しながら、原子レベル機構の研究をさらに進めていくという。
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