電力自由化は“バラ色の未来”をもたらすわけではない(後編)電力供給サービス(1/4 ページ)

電力自由化の課題について解説する本稿。前編ではその前提となるグローバルにおけるエネルギー産業の4つのトレンドについて説明したが、後編では日本の電力システム改革における展望と課題について紹介する。

» 2015年09月14日 07時00分 公開
[三島一孝スマートジャパン]

前編:「電力自由化は“バラ色の未来”をもたらすわけではない(前編)

 前編ではその前提となる世界のエネルギー産業の4つのトレンドを紹介した。後編では、これらの世界の潮流から日本の電力システム改革でどのようなことが起こり得るか、そしてそれはどういう課題を持つかということを紹介する。

エネルギー戦略の多様化

 前編で紹介したのは「効率化」「分散化」「複合化」「財務の視点」の4つのトレンドで動いているという点だ。これはつまり、エネルギー産業が、発電技術や蓄電技術、送電技術、ビジネスモデルなど多岐にわたる選択肢を持つようになり、国や地域などのエネルギー戦略によりその方向性は大きく変わるということを示したものだ。

 例えば、産油国であるサウジアラビアでは2013年では使用電力量の全てを化石燃料に頼っている。これを2030年のエネルギーミックスでは、化石燃料の使用量は減らさず増える電気使用量分を再生可能エネルギーと原子力でまかなうという方針を示している。一方、再生可能エネルギーへと大きく舵を切ったドイツでは、2013年が原子力15%、化石燃料61%、再生可能エネルギー24%だったのが、2050年には再生可能エネルギー80%、化石燃料20%へと転換するとしている(図1)。

photo 図1 国情に応じてエネルギー戦略およびエネルギーミックスは異なる(クリックで拡大)出典:シーメンス

 これらのように国ごとによって目指すべき方向性やそれに伴って取り組むべき内容も大きく異なってきているのが、新しいエネルギー産業の動向である。

電力自由化において考えるべき要素

photo シーメンス・ジャパン 専務執行役員の藤田研一氏

 電力自由化が巻き起こすものとして、電力事業者の「経営効率」と「社会インフラ性をどう維持するか」のバランスが最大の課題だと、シーメンス・ジャパン 専務執行役員の藤田研一氏は指摘する。

 藤田氏は「以前の電力会社は、総括原価方式で一般電気事業者規制業種ゆえの特権と義務があったため、投資と利益効率のバランスがとりやすかった。しかし、電力自由化後は自由競争となり、私企業ゆえの利益と効率の追求が必要になる。より営利企業としての側面が強くなる中、その中で社会インフラとしての位置付けをどう確保するのかという点は難しい問題となる」と述べる(図2)。

photo 図2 電力自由化と環境変化が業界に与える影響(クリックで拡大)出典:シーメンス
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