富士山と共存できる発電所を増やす、風力や地熱で観光と環境教育エネルギー列島2015年版(22)静岡(2/3 ページ)

» 2015年09月15日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

世界文化遺産の近くにメガソーラー

 再生可能エネルギーを観光や環境教育に生かす取り組みは静岡市でも始まっている。市内の観光名所の1つである「日本平動物園」の中に、小型の風力発電機を設置して2014年から実証実験を推進中だ(図5)。

図5 「日本平動物園」に設置した小型風力発電機。出典:国土交通省

 「風レンズ風車」と呼ぶ直径3メートルの円形の風力発電機を使って5kWの電力を作ることができる。年間の発電量は1世帯分に相当する3000〜4000kWh程度で、平常時はトイレや電動アシスト車椅子の電源に利用している。蓄電池も備えて、災害時には非常用の電源として園内の照明設備などに優先的に電力を供給する。

 同じ動物園の池には、太陽光発電で動く水の浄化装置もある。池には野鳥などの動植物が生息しているが、水の流れがないために水質の悪化が問題になっていた。浄化装置の上部に太陽光パネルを搭載して、下部にはプロペラが付いている(図6)。太陽光の電力を使って水中でプロペラを回転させる方法で、水をかきまぜて浄化する仕組みだ。

図6 「日本平動物園」の池に設置した太陽光発電による水浄化装置。出典:静岡市環境局

 この動物園には県内の小中学校から生徒が授業の一環で訪れる。風力や太陽光による発電設備を見ながら、地球温暖化の環境教育に利用できるようになった。従来の動物を中心にした教育メニューをエネルギーの分野にまで広げて、観光地としての魅力向上にも役立てる。

 とはいえ伊豆半島の風力発電所の建設計画でも見られたように、自然環境と再生可能エネルギーの共存は大きな課題である。2013年に富士山が世界文化遺産に登録された前後から、周辺の自治体では発電設備の建設計画を条例で規制する動きが広がってきた。特に重視するのは富士山の景観だ。

 世界文化遺産としての富士山の構成資産の1つに「三保の松原(みほのまつばら)」がある。富士山から40キロメートルも離れているが、海に沿って連なる松林の背景に雄大な富士山が見える絶景で広く知られている。

 この三保の松原から2キロメートルも離れていない近隣の空き地に、中部電力が大規模なメガソーラーを2015年1月に運転開始した(図7)。14万平方メートルの敷地に8MWの太陽光発電設備を導入したもので、年間の発電量は840万kWhを想定している。太平洋沿岸の豊富な日射量を生かして2300世帯分の電力を供給する。

図7 「メガソーラーしみず」の所在地(上)と景観(下)。出典:中部電力

 メガソーラーの周辺には中部電力の火力発電所のほかに数多くの工場が建ち並ぶ。メガソーラーが加わっても富士山の景観にさほど影響はなさそうだが、もう少し三保の松原に近い場所であれば建設できなかった可能性がある。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.