次世代エネルギーを事業の中核へ、覚悟を決めたトヨタの環境戦略(前編)電気自動車(2/3 ページ)

» 2015年10月19日 07時00分 公開
[陰山遼将スマートジャパン]

2020年にFCVはグローバルで年間3万台の販売へ

 先ほどのページの図1で、2050年に向けたエンジン車、HV、PHV、FCV、EVの2050年に向けた販売台数の割合推移を示した。トヨタはこのグラフについて社内での試算をある程度反映したものとしているが、2050年の販売台数におけるそれぞれのクルマの正確な割合は公表していない。グラフから推測するに少なくともHV、PHVが6割程度は占めると見られる。

 だがトヨタが今回の発表において、次世代車の中で唯一具体的な販売目標を示したのが、FCVだ(図3)。2020年頃にはグローバルで年間3万台以上、日本国内では少なくとも月間1000台、年間では1万数千台という販売目標を掲げた。トヨタのFCVといえばもちろん「MIRAI(ミライ)」のこと。トヨタはMIRAIの受注が好調なことを受け、当初の2015年末までの約700台という生産計画を2016年に2000台、2017年には3000台程度に拡大すると発表している。

図3 トヨタが挙げるFCVの利点(クリックで拡大) 出典:トヨタ自動車

 年間3万台という高い目標を設定した理由について、トヨタ自動車 専務役員の伊勢清貴氏は会見で「FCVの普及に向けた熱を冷めさせないことを考えた」と述べている。国内販売については日本政府が2020年の東京オリンピックに向け、水素社会の実現に向けた取り組みを加速させていることも販売を後押しすると捉えているようだ。

 FCVについてはMIRAIの普及だけでなく、その技術を商用車にも展開していく。トヨタは2016年から東京都を中心に、日野自動車のバスにMIRAIの技術を搭載した燃料電池バスを導入する。2020年の東京オリンピックに向け、100台以上導入する計画だ。これに先駆けてトヨタ、日野自動車、東京都は都内での走行実証を2015年7月に実施している(関連記事)。さらにこうした燃料電池バスに加え、豊田自動織機が手掛けるFCフォークリフトやアイシン精機が扱う家庭用蓄電池「エネファーム」など、トヨタグループ全体で水素利用を推進していく(図4)。

図4 トヨタグループ全体で幅広く水素を活用していく(クリックで拡大)出典:トヨタ自動車

HV技術の発展がFCVのコスト削減に

 伊勢氏はFCVの普及について「2020年頃には普及期に入らなくてはいけない」と語った。トヨタは普及に向けた取り組みとして、トヨタはFCV関連の特許無償開放や、ホンダ、日産と共同で水素ステーションの整備促進に向けた運営支援などの取り組みを進めている。トヨタ以外にもホンダ、日産もFCVの販売を計画しており、ホンダについては2016年3月をめどに市場投入する予定だ。トヨタ以外のFCVの登場は普及を後押しする1つの要因になるだろう。

 一方でFCVは現状の価格がまだ高いという課題もある。政府や都道府県の補助金を活用しても400万円以上だ。トヨタでは今後もFCVのコスト低減に向けた取り組みを進めるとしており、ここで生きてくるのがトヨタのHV技術だ(図5)。

図5 HV技術の活用でコストでFCVのコストを削減(クリックで拡大)出典:トヨタ自動車

 HVとFCVでは、パワーコントロールユニット(PCU)やモーター、バッテリーなどの共通部品がある。HV車の量産が進むに伴い、こうした部品については低コスト化が見込める。低コスト化に大きく貢献するのは高圧水素タンクやFCスタックなどのFCV専用部品のコスト低減だ。しかし現時点でFCVの量産台数が少ないことや、白金などの高価な素材を代替する技術が確立していないことから、こちらは時間がかかるだろう。水素ステーションの普及率やトヨタの2050年時点におけるFCVの想定割合を見ても、FCVの普及にはインフラ・エネルギー業界なども連携した長期的な取り組みが必要になりそうだ。

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