プラスチックの太陽電池、効率改善に役立つ不思議な挙動蓄電・発電機器(3/3 ページ)

» 2015年12月04日 13時00分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]
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高い電圧を得た

 光エネルギー損失が少ないと何が起こるか。太陽電池セルから得られる電圧が高くなる。その様子を図5に示した。

図5 2種類の有機分子の電流−電圧特性 出典:JST、理化学研究所、京都大学

 従来の分子である「PNTz4T」(青字)で作成した太陽電池セルでは、開放電圧が約0.7ボルト*5)。これに対して赤字のPNOz4Tでは、約1ボルトに向上している。

 太陽電池の出力(変換効率)は電流×電圧で決まるため、電圧の向上は変換効率向上に直結する。今後は赤いグラフを上方に伸ばすような技術開発が必要だ。冒頭に挙げた膜質の改善である。

 「電子顕微鏡観察や京都大学で実施した分光学的手法によって、PNOz4Tとフラーレンのそれぞれの粒径が大きいことが分かった。粒径が大きいと界面の面積が小さくなる。電子の受け渡しは界面でしか起きないため、粒径を小さくして界面の面積を増やす必要がある。混合プロセスの改善に加えて、溶剤に対する分子の溶解度を高める工夫で改善できるだろう。今回のPNOz4Tは一般的なポリマーと比較して溶解度が低い。分子設計によってこれを高めたい」(尾坂氏)。

*5) PNTz4Tは、理化学研究所が2012年に開発した分子。塗布型有機薄膜太陽電池に使用すると変換効率約10%を得られる。

これまでの有機分子と異なる挙動を示す

 開発したPNOz4T分子が、従来の有機薄膜太陽電池向けの分子とどれほど違うのかを、図6に示した。

 図6からは、変換効率が高く、同時に光エネルギー損失が小さな分子がこれまでなかったことを読み取ることができる。光エネルギー損失が小さいという条件では、世界最高レベルの変換効率を示したのだという。

 「開発したPNOz4Tのバンドギャップは1.52電子ボルト。この値なら、20ミリアンペア/平方センチメートル程度の電流密度を狙うことが可能だと考えている」(同氏)。図5にある青い線と同じ高さまでの改善に相当する。

図6 有機薄膜太陽電池の光エネルギー損失と変換効率の関係 出典:JST、理化学研究所、京都大学

【更新情報】 記事公開後、図を3点追加し、図1、図2、図4としました(2015年12月5日)。



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