薄膜の太陽電池で新記録、22.3%のCIS蓄電・発電機器(1/2 ページ)

シリコンを使わない太陽電池に勢いがある。銅とインジウム、セレンを用いた化合物半導体「CIS」を薄膜に加工した、低コストで生産性の高い太陽電池だ。ソーラーフロンティアは、2015年12月、CIS薄膜太陽電池の変換効率が22.3%に達し、世界記録を更新したと発表した。製品に直結する技術だという。

» 2015年12月10日 13時00分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]

 薄膜を用いた太陽電池が、結晶シリコン太陽電池の性能と真っ向勝負に入りそうだ。ソーラーフロンティアは2015年12月8日、CIS化合物半導体を用いた薄膜系太陽電池において、変換効率22.3%を達成したと発表した。

 同社によれば、CIS化合物半導体を用いた太陽電池としては世界最高記録であり、従来の世界記録を0.6ポイント上回ったという*1)

 試作した太陽電池は、面積0.5平方センチメートルの小型セル(図1)。ドイツのフラウンフォーファー研究所が性能を検証した。「この12月に検証結果がドイツから戻ってきたばかりだ」(ソーラーフロンティア)。

*1) 米国立再生可能エネルギー研究所(NREL)が2015年8月6日に公開した太陽電池の変換効率の記録集(研究開発段階のセル)によれば、多結晶シリコン太陽電池の変換効率の記録は20.8%、CIS薄膜太陽電池はドイツZSWによる21.7%、単結晶シリコン太陽電池は25.0%。なお、今回の22.3%という数字は各種薄膜を利用した太陽電池としても最高の値である(集光型を除く)。

図1 変換効率22.3%を達成した小面積セル 出典:新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)

電流密度が向上か

 報道発表資料では、同社の副社長で研究開発部門を統括する栗谷川悟氏が記録達成に至った理由を2つ挙げている。CIS光吸収層の表面品質の向上と、接合形成技術の改良だ。今回の結果は同社が目標とする変換効率30%への着実な一歩だと位置付けた。

 CIS薄膜太陽電池はさまざまな機能を持つ化合物の層を積み上げた構成を採る。最小限の構成では、光が照射する方向から順に、透明電極(酸化亜鉛:ZnO)、バッファ層(硫化亜鉛:ZnS)、発電を担う光吸収層(銅インジウムセレン:CIS)、裏面電極(モリブデン:Mo)、基板(ガラス)を置く。

 図2に同社の層構造を示した。反射防止層(フッ化マグネシウム:MgF2)や、複数のバッファ層を導入している*2)。オレンジ系統の色で光吸収層を示した。光吸収層内でイオウ(S)やガリウム(Ga)といった元素を添加して組成を変え、バンドギャップ(Eg)に幅を持たせて、さまざまな波長の光を効率よく利用できるようにしていることが分かる。

*2) 図2は後ほど紹介する「平成27年度NEDO新エネルギー成果報告会太陽光発電分野(講演番号P1-8)」で杉本広紀氏が示した図である。CIS薄膜太陽電池の小面積セルの効率向上を妨げる要因を分析した結果、2014年時点の課題は光学ロスのうち「非透過(non-transmission)」にあった。この結果、シリコン太陽電池と比較して電流密度が低くなってしまう。これを解決するには、透明導電膜の透過率改善と光吸収層のバンド傾斜の調整が最も重要だという結論に達している。

図2 CIS薄膜太陽電池の層構造 出典:ソーラーフロンティア
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