CO2フリーの水素を動物園や市場へ、農山村に小水力発電と竹バイオマスエネルギー列島2015年版(35)山口(2/3 ページ)

» 2015年12月15日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

ユニークな小水力発電が広がる

 全国に先がけて水素エネルギーの地産地消を推進するのと合わせて、再生可能エネルギーの導入プロジェクトも着々と広がっている。山口県では小水力発電の取り組みが進んでいて、農山村を中心にユニークな活用法を見ることができる。

 県の企業局が宇部市の山間部にある「宇部丸山ダム」に小水力発電所を建設中だ。このダムは上流からの水を貯めて、周辺地域に工業用水や水道用水を供給する役割を担っている。ダムの水面から取水塔が突き出ていて、その内部に水車発電機を設置する(図4)。

図4 「宇部丸山ダム」の取水塔の外観(左上)と内部構造。出典:山口県企業局

 取水塔の内部には、水量を調整するためのバルブが予備用を含めて2台ある。このうち1台を水車発電機に置き換えて、取水しながら発電する仕組みだ(図5)。もし水車発電機が故障して運転を停止した場合でも、従来からある予備用の取水バルブに切り替えて、用水の供給を続けることができる。

図5 既設の取水バルブ(左)と置き換える水車発電機(右)。出典:山口県企業局

 取水口から発電機までの水流の落差は19メートルある。最大で毎秒0.9立方メートルの水を取り込むことができて、発電能力は130kWになる。年間に60万kWh(キロワット時)の電力を供給できる見込みだ。一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算して170世帯分に相当する。運転開始は2015年度内を予定している。

 もう1つのユニークな小水力発電プロジェクトは、山口県内に数多くある棚田に展開している。県の農林水産部が農村の活性化を目指して推進中だ。出力が4.8kWの簡易型の小水力発電機を使って、棚田の横を流れる狭い農業用水路にも設置することができる。

 これまでに県内6カ所に導入を完了した。その中では宇部市で2015年8月に運転を開始した事例が最も新しい。棚田の横を流れる用水路の水をパイプで取り込んで、上掛け式の水車を回して発電する方式だ(図6)。

図6 宇部市の農業用水路に設置した簡易型小水力発電機(上)と電気柵(下)。出典:山口県農林水産部

 水量は毎秒5リットルで、落差は0.8メートルである。発電した電力はイノシシの被害から農作物を守るための電気柵(総延長800メートル)に供給する。発電設備の導入コストは配管や工事費を含めて30万円で済んだ。

 簡易型の小水力発電機を使えば、電力の供給が難しい農地でも電気機器を設置することが可能になる。すでに導入した6カ所の多くは電気柵の電源に利用しているが、一部の地域では山道に電灯を設置して夜間の安全対策にも生かしている。

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