エネルギーの地産地消で町が変わる、自治体が電力の小売に乗り出す2016年の電力メガトレンド(4)(1/3 ページ)

電力会社を頂点とする従来の市場構造を転換する試みが全国各地に広がってきた。自治体が主導して再生可能エネルギーを増やしながら、同時に地域内で消費できる循環型のエネルギー供給システムを構築する。4月に始まる全面自由化に向けて、自治体が出資する小売電気事業者も続々と生まれる。

» 2016年01月13日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 全国で約1700に及ぶ自治体はいずれも、学校や病院を含めて数多くの公共施設を所有している。大量の電力を消費する立場にあって、電力の安定供給やコストに対する意識は高い。その一方で地域の活性化に向けた実効力のある対策を求められている。新たな町づくりを目指して再生可能エネルギーの地産地消を推進する動きが活発になり、自治体みずから電力の小売に乗り出すケースも増えてきた。

 注目を集める自治体の1つが鳥取県の鳥取市だ。市内でガス事業を展開する鳥取ガスと共同で、電力小売の新会社「とっとり市民電力」を2015年8月に設立した。さらに12月には再生可能エネルギーによる発電事業を支援する「とっとり環境エネルギーアライアンス」を地元の企業6社と設立して、地域内でエネルギーを供給できる体制づくりを進めている(図1)。

図1 鳥取市のエネルギー地産地消を推進する2つの事業会社。出典:鳥取市役所 

 当初は市が所有する施設に電力を販売することから始めて、段階的に民間企業と一般家庭にも供給範囲を広げていく計画だ。地域内で発電事業と小売事業を拡大することによって新たな雇用を創出しながら、災害に強いエネルギー供給システムを構築していく。電力に加えて資源や資金を地域内で循環させて活性化を図る(図2)。

図2 エネルギーの地産地消による町づくりの構想(画像をクリックすると拡大)。出典:鳥取市役所 

 福岡県みやま市は鳥取市より一足早く、2015年4月から電力の小売事業に参入した。地元の銀行などから出資を受けて「みやまスマートエネルギー」を設立して、市役所や学校などの公共施設32カ所を皮切りに電力の供給範囲を拡大中だ(図3)。全面自由化が始まる2016年4月から家庭向けにも電力の販売を予定している。

図3 福岡県みやま市が推進する電力事業。出典:みやまスマートエネルギー 

 この事業でも地域の再生可能エネルギーの調達量を増やしていく。九州電力の管内で出力が50kW(キロワット)未満の太陽光発電設備を対象に、固定価格買取制度よりも1円高い価格で電力を買い取る事業を開始した(図4)。市民が再生可能エネルギーを導入する取り組みを支援しながら、夏の電力需要が増えるピーク時に地域内のエネルギーを有効に活用する。

図4 太陽光発電の買取事業。出典:みやまスマートエネルギー 

 みやまスマートエネルギーは初年度から営業利益を上げる見通しで、その収益を農林業や観光業などの地域産業に投資する方針だ。市民向けにはHEMS(家庭向けエネルギー管理システム)による情報サービスを拡充していく。当面は2000世帯を対象に、電力の使用量や室内の温度・湿度のデータを利用した高齢者の見守り・健康チェックサービスなどを提供する。

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