電力会社に独占禁止法の新たな規制、スイッチングの妨害などが対象に動き出す電力システム改革(56)(1/3 ページ)

電力の取引に関しては経済産業省と公正取引委員会が共同で作成した指針があり、小売全面自由化を前に内容を改定した。小売・卸売・託送の3分野を中心に問題となる行為を挙げて、独占禁止法や電気事業法に違反する可能性を示している。特に電力会社に対する規制を数多く盛り込んだ点が特徴だ。

» 2016年03月09日 09時56分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

第55回:「電力会社10社が契約変更のシステム、予定どおり3月までに稼働」

 経済産業省と公正取引委員会による「適正な電力取引についての指針」が3月7日に改定された。この指針は小売の一部自由化(2000年4月)が始まる直前の1999年12月に作成したのが始まりで、7回目の改定にあたる。電力市場に公正な競争状態を確保するために、問題となる行為に対しては独占禁止法や電気事業法による罰則を適用できる。

 今回の改定の特徴は既存の電力会社(一般電気事業者)に対する規制を数多く盛り込んだことだ。2016年4月1日に実施する小売全面自由化に伴って、電力会社は発電・送配電・小売電気の3つの事業者に位置づけられる(図1)。このうち送配電は従来どおり地域独占で事業を続ける一方、発電と小売の分野では自由競争が始まる。

図1 小売全面自由化に伴う電気事業者の区分変更(上)、電力会社の各部門の位置づけ(下)。出典:資源エネルギー庁

 ただし2020年4月に発送電分離を実施するまでのあいだは、同じ電力会社の組織の中で発電・送配電・小売の各事業を運営できる。新たに改定した指針では、電力会社の各部門が独占的な立場を利用して公正な競争を阻害しないように、「望ましい行為」と「問題となる行為」を具体的に列挙した。

 小売に関して望ましい行為に加わった項目が2つある。1つは小売電気事業者が電力会社に支払う託送料金の相当額を需要家の請求書や領収書に明記することだ。託送料金は小売電気事業者が需要家まで電力を送り届けるために、電力会社の送配電部門に委託する業務の対価である(図2)。

図2 電力の供給に伴って発生する料金。出典:資源エネルギー庁

 託送料金の単価は地域別に認可を受けて決められている。家庭や商店が利用する低圧の場合には、電力1kWh(キロワット時)あたり7円台〜9円台である(図3)。同じ地域で電力を販売する小売電気事業者には同一の託送料金を適用するため、需要家の請求書や領収書に金額を記載することによって、競争部分の料金と非競争部分の託送料金が明確にわかるようになる。

図3 地域別の託送料金単価(低圧向け)。出典:資源エネルギー庁

 とはいえ望ましい行為として規定したに過ぎず、強制力はない。小売全面自由化後に経済産業省がすべての小売電気事業者の実態を調査して、実施していない場合には何らかの措置をとることが必要だろう。

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