プレスで作る「全固体電池」、電気自動車に向くスマートエネルギーWeek 2016(2/3 ページ)

» 2016年03月14日 11時00分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]

動作温度以外の性能も確保

 日立造船の全固体リチウムイオン蓄電池の特徴は温度特性だけではない。試作品の段階でも、液体電解質を用いるリチウムイオン蓄電池とほぼ同程度の性能があるとした。「体積エネルギー密度は700ワット時毎リットル(Wh/L)以上、重量エネルギー密度は200Wh/kg以上だ」(同氏)。展示した20m角のセルの容量は8ミリアンペア時(mAh)、100mm角は200mAhである*2)

 寿命も確保した。25度下で270サイクルの充放電後、容量維持率が98%となった。一般的な使用条件では約7年後も90%以上の容量維持率を確保できるとした*3)

 蓄電池は外部に電力を供給していない状態でも、内部でわずかな放電が起こる。試作品では、4V充電後、70日間保管(25度)しても自己放電は約6%と少ない。半年間0度で保管した場合や、同じく25度保管した場合は約8%だという。

 自動車への採用を目指しているため、今後の開発では、容量(エネルギー密度)の向上や、高温での充電速度を高めるとした。「材料の粉体をプレス加工しているため、材料同士の接点は点になる。そのため、20Cといった高速の充電は無理だろう。それよりも例えば高温での1Cの充電を目指したい」(同氏)*4)

*2) 固体電解質は流動性を持たないため、電池セルを複層に重ねやすく、10枚で2000mAhというモジュール化が可能だという。
*3) 維持できない容量が充放電サイクル数の2分の1乗に比例して増加する法則(ルート則)に基づいた推定。
*4) 蓄電池は一般に大電流で充放電すると、小電流で充放電したときと比較して容量が小さくなる(レート特性)。展示では試作品のレート特性がよいことも見せていた。25度の条件で、2C放電(電池の容量を30分で放電する電流)した場合でも、0.1C放電の容量の75%を維持している。

全固体電池の性能はどこで決まる

 全固体リチウムイン蓄電池の充放電動作は、液体電解質を使う従来のリチウムイオン蓄電池とほぼ同じだ(図4)。充電時には正極活物質から負極活物質へリチウムイオンが移動し、放電時には逆に動く。

 全固体方式で特に重要なのは、リチウムイオンが移動しやすい固体電解質や両極の活物質を選び、密な構造を作り込むことだ。移動が遅いと、充電時間が長くなり、一度に大きな電流を放電できなくなる。

図4 全固体電池の動作原理 一般的な動作の仕組みを示した(クリックで拡大)。

 日立造船の試作セルでは、集電体にアルミニウム集電膜やステンレス集電膜を用い、固体電解質には硫化リチウム系化合物を利用した。

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