NIMSの研究チームは変換効率を高めるための工夫を2つ盛り込んだ。ペロブスカイト層の混合カチオン比の調整と、ヨウ素を一部臭素に置き換えたことだ。
順を追って説明しよう。まずは混合カチオン比の調整だ。
太陽電池を設計する際、連続スペクトルからなる太陽光からできるだけ大きな電力を生み出すように半導体材料を選ぶ必要がある。地表に降り注ぐ太陽光は300ナノメートル(nm)から2500nmまで幅広い波長の光を含んでおり、最も多いのは可視光の緑色辺りの光(約460nm)だ。
半導体はそれぞれ吸収できる光の波長に上限がある。ある半導体を選ぶと、例えば短波長の青い光は吸収できるものの、長波長の赤い光は吸収できない。半導体だけが備える「バンドギャップ」を利用して光を吸収しているからだ。バンドギャップの数値(電子ボルト:eV)の大きい半導体がこのような挙動を示す。
吸収する光が少ないと、太陽電池の生み出す電流が小さくなる(短絡電流密度Jscが減る)。これは困る。電流を増やすには、長波長の光も吸収できるバンドギャップの小さな半導体を選べばよい。ところが、今度は電圧が下がってしまう。太陽電池の開放電圧はバンドギャップに比例するからだ。
あちらを立てればこちらが立たずという状況だ。太陽電池の出力は、電流×電圧で決まるため、半導体の選択が最適でないと出力が下がってしまう。
混合カチオン比の調整とは、まさにこの選択の妙を指している。「今回は(ヨウ化鉛と組み合わせる有機物として)、MA(メチルアンモニウム)とFA(ホルムアミジニウム)を用いました。一般的に、FAを使うペロブスカイト材料はバンドギャップが1.48eVで、MA(1.56eV)より狭いため、光吸収端は50nmほど長波長へ移動します。従って太陽光の吸収波長幅が広がるため、短絡電流密度Jscが高くなります(図4)」(同氏)。
ただし、FAだけを使うことには課題があるのだという。「FAのペロブスカイト結晶は不安定のため、MAを混合して使う方が安定性に有利です。その混合比により、結晶性の純度が異なります。今回、作製方法や混合比を調整して、よりよい結晶を得ることができたため、今までのMAより太陽光の吸収率が高くなり、Jscの向上に至りました」(同氏)。
ペロブスカイト材料にはハロゲン化鉛系の材料を使うのが定番だ。ハロゲンとしてヨウ素だけでなく、一部を臭素に置き換えるとどの程度効果的なのだろうか。
「一般的に、FAを混合すると、バンドギャップが狭くなるため、開放電圧Vocが低くなる負の効果があります。一方、ヨウ素を臭素で置換するとバンドギャップが広くなります。今回、バンドギャップに対する相反効果があるFAと臭素を同時に使用することで、Vocの低下を防ぎ、Jscの向上を実現しました」(同氏)*8)。
今後は、現在よりも太陽光波長を広く利用するペロブスカイト材料を利用し、さらに変換効率の高い太陽電池セルを作り上げていくという。冒頭に挙げた20%への道だ。「今後、FAのみを使うことにしたいと考えています。これにより、Jscを25mAまでに向上させることが可能になります。難しいと思いますが、NIMSの技術で挑戦したいです」(同氏)。
*8) 一部を臭素に置き換えることでペロブスカイト結晶のサイズが大きくなる効果もあるとした。
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