バイオマス発電が「モリノミクス」を加速、港の洋上風力と波力にも期待エネルギー列島2016年版(6)山形(2/3 ページ)

» 2016年05月17日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

木質と下水汚泥からバイオガスを作る

 山形県では江戸時代から4つの地域に分かれて経済や文化が発展してきた。木質バイオマスの取り組みも地域ごとに特色が見られる。内陸部の北側に広がる最上(もがみ)地域は県内でも降雪量の多い豪雪地帯で、伐採後に森林に放置する林地残材の処理が課題になっている(図4)。

図4 間伐による林地残材。出典:山形県最上総合支庁

 最上地域の中で最も山深い場所にある最上町(もがみまち)は面積の84%を森林が占めている。バイオマス発電を導入するにあたり、木質チップを高温で燃焼してガスを生成させる方式を採用した(図5)。ガス化装置を含めて設備全体を小規模にまとめられるメリットがある。発電能力は1MWで、2016年10月に運転を開始する予定だ。

図5 ガス化装置を組み合わせたバイオマス発電システム。出典:ZEエナジー

 発電所に隣接して燃料の木質チップ製造工場を建設するほか、発電に伴う熱を町営の施設で活用することも検討している。木質バイオマスを最大限に活用して、2020年までに町内のエネルギー消費量の20%を再生可能エネルギーで供給することを目指す。

 バイオマス資源からガスを作って発電に利用する取り組みでは、下水を処理する浄化センターが先行している。県内で人口が最も多い山形市の浄化センターは1988年からバイオガス発電に取り組んできた。電力と同時に熱も供給できる燃料電池を導入してエネルギーの自給率を高めている(図6)。

図6 「山形市浄化センター」の燃料電池。出典:山形市上下水道部

 現在は1基あたり100kW(キロワット)の発電能力がある燃料電池4基を使って電力と熱を供給している。燃料電池が生み出す電力量は年間に約300万kWhになり、浄化センターで消費する電力の60%以上をまかなうことができる。熱も施設内の暖房や給湯に利用して光熱費の削減に生かす。

 山形市浄化センターには1日に4万立方メートルにのぼる下水が集まってくる。下水の固形成分である汚泥を発酵させると、メタンガスを主成分とする消化ガス(バイオガス)が発生する。この消化ガスを燃料電池に供給して循環型のエネルギー利用サイクルを実現している(図7)。燃料電池の排熱は汚泥の発酵にも利用できる。さらにバイオガスを取り出した後の汚泥から肥料を作って農作物の栽培に生かす。

図7 汚泥を発酵させる消化槽(上)、消化ガス発電の実施イメージ(下、画像をクリックするとプロセス全体を表示)。出典:山形市上下水道部

 山形市に続いて人口が2番目に多い鶴岡市の浄化センターでもバイオガス発電が始まっている。25基のガスエンジン発電機を設置して2015年10月に運転を開始した(図8)。発電能力は25基の合計で300kWになり、年間に200万kWhの電力を供給できる。発電した電力は固定価格買取制度で売電している。

図8 「鶴岡バイオガスパワー」の発電設備。出典:鶴岡市上下水道部

 発電事業は水処理専門会社の水ing(スイング)が担当する。自治体が発電事業を運営する山形市のケースと違って、民間の資本とノウハウを導入する民設民営方式を採用した。鶴岡市は水ingに消化ガスを販売するのと合わせて土地の使用料も得る。初期投資なしで再生可能エネルギーの導入量を増やしながら新たな収益を拡大できるスキームだ。

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