電気の埋蔵金「需給調整技術」、導入のカギは“レジ係”にありエネルギー市場最前線(3/5 ページ)

» 2016年05月19日 09時00分 公開
[三島一孝スマートジャパン]

個別最適から全体最適へ

 自動デマンドレスポンスおよびネガワット取引実証の取り組みは、最先端のICT(情報通信技術)を使ったものであるが、実際の現場では地道で泥臭い苦労があったという。実証の苦労や今後の取り組みについて、デマンドレスポンス実証の最前線に立っている京セラ 東京事務所 研究開発本部 ソフトウェアラボ システム研究部責任者の草野吉雅氏に話を聞いた。

photo 京セラ 東京事務所 研究開発本部 ソフトウェアラボ システム研究部責任者の草野吉雅氏

スマートジャパン そもそも京セラがデマンドレスポンスに取り組んだきっかけは何ですか。

草野氏 京セラは、もともと太陽電池やメガソーラー、蓄電システムなど個々のエネルギー関連の製品を扱ってきた。しかし、2011年の東日本大震災をきっかけに、電力ネットワークについても個別最適から全体最適へという機運が生まれ、それに伴い京セラでも開発を進める動きになった。最初は「電気の見える化」などから始め「BEMS(ビルエネルギーマネジメントシステム)」などへと広げていった。

「はじめは詐欺師扱いだった」

スマートジャパン 最初から順調だったのでしょうか。

草野氏 さまざまな提案を進める中で2014年には、日本IBMと東京コミュニティーと共同で自動デマンドレスポンスの実証事業を行うことができた。またその流れで、2015年度もネガワット取引を見据えた技術実証事業者として認定を受け、商業施設や工場などでの実証を進めることができた。これらの技術的な面やパートナーシップなどを見ると順調に進んできたように見えるが、実際には多くの苦労があった。

 デマンドレスポンスや電力見える化のような提案は、政府やITベンダーなどの見方では価値のあるものだが、実際にそれを導入し運用する現場の人たちにとってどういう価値をもたらすことができるのかを提示できなければ、受け入れられない。京セラでは特に食品スーパーやコンビニなどに強く、2015年度の実証でも多くの実績を得ることができたが、当初は、“いらない手間を増やしに来た詐欺師”の扱いだった。

 食品スーパーでは、店舗当たりの売上利益率は非常に低く、投資にはシビアに成らざるを得ない。一方で人手も限られており、力のあるパート従業員に店舗運営を任せている状況だ。その中で店舗に大きな投資を要求したり、人手のかかるような機器設置をお願いしたりするような仕組みが通るわけがない。当社ではデマンドレスポンス実証に当たり、店舗に何度も何度も通い詰め、パート従業員にまで、名前を覚えてもらうくらいまでになって、ようやく食品スーパーに最適な省エネおよびデマンドレスポンスの形ができてきたといえる。

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