EV普及の起爆剤、性能5倍のブレークスルー蓄電池が試作段階へ電気自動車(2/4 ページ)

» 2016年05月19日 07時00分 公開
[陰山遼将スマートジャパン]

産学連携による集中研究方式で実施

 RISINGプロジェクトの特徴が、産学連携による集中研究方式の採用だ。多くの時間を要する蓄電池の基礎技術研究を、産学連携の体制で集中的に行い効率化する狙いがある。第1期ではトヨタ自動車や日産自動車、本田技術研究所、三菱自動車といった国内自動車メーカーをはじめとする13社の企業と、13大学、4研究機関が参画した。プロジェクトリーダーは京都大学が務め、同大学と産業技術総合研究所を集中拠点とし、ここに参加企業や大学・研究期間が集まるかたちで研究開発を進めてきた。

 第1期のRISINGにおける開発目標は大きく2種類ある。1つ目が新型蓄電池の研究開発に求められる解析技術の開発だ。2つ目がRISINGの最終目標であるエネルギー密度500Wh/kgの達成を見据え、まずは300Wh/kgの密度を達成できる電池系(蓄電池の種類)の選定である。

 解析技術については、高強度ビームを活用した動的解析技術をはじめとする新しい解析技術を確立した他、兵庫県佐用町にある大型放射光施設「SPring-8」などの施設に蓄電池専用のビームラインを開発することで、複雑な電気化学反応のメカニズムの詳細研究が行える体制を整えた。

リザーバ型の蓄電池に着目

 研究開発を進める新型蓄電池の選定において、第1期RISINGプロジェクトの大きな特徴となっているのが、リザーバ型という新しいタイプの蓄電池に注目した点だ(関連記事)。先述したようにLIBのエネルギー密度は300Wh/kg程度が限界とみられている。これはLIBが充放電動作として「インサーション型」をとっていることが影響している。インサーション型とは、イオンを収納する入れ物(電極)の間をリチウムイオンが移動することで充放電動作を行う仕組みで、サイクル特性(寿命)に優れる一方、エネルギー密度に制約生まれてしまう。

 一方、リザーバ型ではこの「入れ物」を使わずに、金属そのものを電極として利用するのが大きな特徴である。理論的にはエネルギー密度が大幅に向上する。しかし、充放電を繰り返す二次電池において重要となるサイクル特性が劣るという欠点もある(図2)。

図2 リザーバ型蓄電池の概念図。左側は負極に金属リチウムを用いる金属リチウム二次電池、右側は陰イオン(アニオン)によって電荷を移動するハロゲン化物蓄電池 出典:NEDO

 現在、市場にこのリザーバ型の蓄電池はほぼない状態だ。第1期のRISINGプロジェクトではこのリザーバ型蓄電池の基礎研究を進めた。その結果、添加剤(アニオンレセプター)の導入や溶解性の高い電極材料の固定化、電極−電解質界面のナノレベルでの制御などを行うことで、リザーバ型電池に用いる複数の材料においてサイクル特性や充放電特性を向上させること成功した。

 具体的な蓄電池の種類としては、亜鉛空気電池、硫化物電池、ナノ界面制御電池の3種類において、第1期の目標であるエネルギー密度300Wh/kgを達成することができた(図3)。

図3 RISINGにおける開発成果。3種類の新型蓄電池でエネルギー密度300Wh/kgを達成した (クリックで拡大) 出典:NEDO

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