太陽光発電で被災地が生まれ変わる、洋上風力や地熱発電も復興を後押しエネルギー列島2016年版(7)福島(4/4 ページ)

» 2016年05月24日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]
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温泉水と湧水を使ってバイナリー発電

 洋上に大規模な風力発電が広がる一方、内陸部の温泉地では小規模な地熱発電所が動き出した。福島市の中心部から15キロメートルほどの場所に「土湯(つちゆ)温泉」がある(図12)。古く6世紀のころから温泉が湧き出ていたと言われる名湯で、現在も150度前後の高温の蒸気と温泉水が大量に噴出する。

図12 「土湯温泉」の所在地と地熱発電設備。出典:JOGMEC

 源泉のうちの1つを利用して、「土湯温泉16号源泉バイナリー発電所」が2015年11月に運転を開始した。バイナリー方式は水よりも沸点が低い媒体(ペンタン)を蒸発させて発電する仕組みで、小規模な地熱発電では標準的に使われている(図13)。

図13 「土湯温泉16号源泉バイナリー発電所」の全景と設備構成。出典:福島県企画調整部

 発電能力は400kW(キロワット)で、年間の発電量は260万kWhを見込んでいる。一般家庭の720世帯分に相当する。発電した電力は固定価格買取制度で売電して、年間に9000万円の収入を得ることができる。発電事業者は地元の温泉協同組合が中心になって設立した「つちゆ温泉エナジー」である。

 温泉水の成分は発電に利用しても変わらないため、近隣の旅館などに温泉として供給できる。バイナリー方式の発電設備では蒸発した媒体を冷却して液体に戻す必要があり、土湯温泉では湧水を冷却用に使っている。自然が生み出す温泉水と湧水を組み合わせた地熱発電は全国でも珍しい。

 山に囲まれた土湯温泉には川が流れていて、地熱発電よりも少し早く小水力発電を開始している(図14)。川に設けられた砂防堰堤の落差を利用して、最大で140kWの電力を供給できる。地熱発電と小水力発電による再生可能エネルギーで電力を自給できる環境を整備して、震災から力強く復興する温泉地の街づくりを観光にも生かす考えだ。

図14 土湯温泉の風景(上)、小水力発電に利用した川の砂防堤堰(下)。出典:資源エネルギー庁、土湯温泉町復興再生協議会

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2015年版(7)福島:「太陽光発電で全国1位に躍進、被災地に新たなエネルギーの芽生え」

2014年版(7)福島:「世界最高レベルの発電技術を太平洋に集結、脱・原子力のシンボルに」

2013年版(7)福島:「2040年にエネルギー自給率100%へ、太陽光を増やしてから風力を伸ばす」

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