選手村を構成する住宅棟と商業棟には次世代燃料電池を導入して、電力・熱のほかに水素も供給できる「マルチエネルギーステーション」の構築を目指す。高性能のSOFC(固体酸化物形燃料電池)をベースにしたシステムで、都市ガスから水素を生成して発電・熱供給に加えて燃料電池車などに水素を供給できる(図5)。
このほかに都市ガスではなくて水素をそのまま燃料に使える純水素型の燃料電池も導入してCO2(二酸化炭素)の削減に取り組む。水素ステーションから地区内の水素パイプラインを通じて、各施設の燃料電池に水素を供給する仕組みだ。
さらに東京都は福島県で作ったCO2フリーの水素を活用するための研究開発プロジェクトも推進していく。福島県内の太陽光発電や風力発電で作った電力から水素を製造して、液化した状態で東京都まで輸送する計画だ(図6)。福島県などと共同で実証研究を進めながら、2020年のオリンピックまでに水素の製造・輸送・貯蔵の体制を構築する。
これまで東京オリンピック・パラリンピックの開催準備にあたっては、競技場の設計やロゴの制作などで問題が噴出してきた。協力者になる企業や専門家を選ぶプロセスに不透明な部分があり、選定のやり直しを余儀なくされている。もしエネルギー事業でも同様の問題が発生した場合には、オリンピックまでに準備が間に合わなくなるおそれがある。
東京都は6月下旬に選考委員会を開催して、応募者によるプレゼンテーションとヒアリングをもとに事業協力者を選定する考えだ(図7)。問題になった競技場の設計やロゴの制作と基本的には同様のプロセスである。選考委員会のメンバーも現時点では明らかになっていない。
事業計画の策定に参画した民間企業は実際に設備を建設・運営する事業にも加わる可能性が大きいことから、透明性の高い選定プロセスが求められる。東京オリンピック・パラリンピックは日本の水素・燃料電池の技術の高さを世界にアピールする重要な場であり、その後の水素社会の進展にも影響を与える。
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