シビレエイで発電する、驚きの発電システムを理研が開発自然エネルギー(3/3 ページ)

» 2016年06月03日 07時00分 公開
[三島一孝スマートジャパン]
前のページへ 1|2|3       

シビレエイ発電機のプロトタイプを作成

 次に、電気器官をデバイスに組み込んだ発電機のプロトタイプ作製を行った。先述した実験で発電自体は可能だったが、電気器官のサイズが一定でなく、シリンジ針を支持体なく電気器官に刺しているため、電圧・電流が電気器官ごとに安定せず、ノイズが発生しやすい状況にあった。これらを解決するには、一定サイズのデバイスに電気器官を組み込むことが必要となる。

 そこで、摘出したシビレエイの電気器官を3センチメートル角にカットし、これをアルミやシリコンゴムで作製した容器に固定。発生電力の安定化ならびに直列による電圧増強、並列による電流増強を調べた(図4)。

photo 図4 実際のデバイス写真(右)と、直列デバイスの原理図(左)。3センチメートル角にカットした電気器官に電極をつなぎデバイス化する。このデバイスを直列につなぎ、2個あたり1本のアセチルコリン溶液の入ったシリンジを接続する。1個のデバイスに4本の細管からアセチルコリン溶液が注入される 出典:理研

 その結果、16個のデバイスを直列につなぐことでピーク電圧1.5V、ピーク電流0.25mAを達成した(図5)。

photo 図5 電圧と電流の測定結果。ピーク電圧1.5V、ピーク電流0.25mAを達成した。 出典:理研

 一般的に電力を活用するためには、常時一定の電力が供給されることが必要となる。しかし、このデバイスで発電した場合、発生電力はアセチルコリン注入後から徐々に低下する。そのため、もしこのデバイスで発電した電力を使用するのであれば、蓄電が必須となる。そこで、デバイスを含む電気回路を構成し蓄電を行った結果、電力はコンデンサーに蓄電され、電池のように利用できることが実証できた(図6)。

photo 図6 蓄電回路図(左)と発電電圧(V、青)とコンデンサ蓄電電圧(Vc、ピンク)。発電後、コンデンサーの電圧が上昇し、それが一定に保たれたことから電力を電池のように一定供給できる可能性を示した。 出典:理研

天然モノに頼らない開発を

 今回の研究は、ATPエネルギーのみで実現できる高効率発電機に向けた第一歩だと位置付けられる。しかし、シビレエイは安定・大量に入手できるものではないため、電気器官に相当するものを人工的に構築する必要がある。これを目指し、細胞膜やタンパク質の再構成手法とマイクロ・ナノ流体技術を融合し、分子からボトムアップ的に細胞機構を開発し、発電細胞と同様の材料を創出することを目指すと理研では述べている。

 ATPは生物には必ず含まれ、生物が関連するあらゆるところに存在することから、将来的には、このようなデバイスは、生体内の他、食物や排水など、さまざまな環境下に存在するATPやグルコースを利用した微小エネルギー駆動型の環境発電機として応用が期待されている。

前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.