節電した電力を売買する「ネガワット取引」、実施スキームが見えてきた動き出す電力システム改革(63)(2/2 ページ)

» 2016年06月22日 11時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]
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卸電力取引所が仲介するネガワット取引も

 ネガワット取引には事業者間で実施する「直接協議スキーム」のほかに、中立的な仲介者が加わる「第三者仲介スキーム」もある。ネガワット事業者が小売電気事業者に支払う補填金(正式には「ネガワット調整金」と呼ぶ)の水準を第三者が決めることによって、事業者間の力関係で不当な料金が設定されることを防ぐ。現在のところ第三者の役割は「日本卸電力取引所(JEPX)」に集約する案が有力である(図4)。

図4 日本卸電力取引所(JEPX)を仲介者にした「第三者仲介スキーム」の契約形態(画像をクリックすると拡大)。出典:資源エネルギー庁

 第三者仲介スキームで設定するネガワット調整金の単価は、小売電気事業者の電気料金メニューをもとに決める。各事業者の標準メニューの単価から送配電事業者に支払う託送料金を差し引いた金額がベースになる。家庭向けの料金メニューで一般的な3段料金制を適用する場合には、最も高い3段目の単価をもとに報奨金やネガワット調整金を決定する方向だ(図5)。

図5 「第三者仲介スキーム」における報奨金とネガワット調整金の算定案。出典:資源エネルギー庁

 このように標準的な電気料金をベースに報奨金とネガワット調整金を設定すれば、需要家と小売電気事業者の双方にネガワット取引のインセンティブが働く。ただし第三者仲介スキームを実施するにあたってJEPXがシステムを整備する必要があるため、2017年4月に開始するのはむずかしい状況だ。政府は2017年内の実施を目指している。

 ネガワット取引を円滑に運用するためには、事業者間で情報を共有できる仕組みを整備することも重要になる。全国レベルの電力の需給調整を担う「電力広域的運営推進機関」(広域機関)がネガワット取引に関連する情報を集約して、各事業者に伝達する方法が望ましい(図6)。

図6 ネガワット取引に伴う情報の流れ。出典:資源エネルギー庁

 ネガワット事業者が節電量のもとになるベースラインの情報を広域機関に伝えて、その情報を関係する小売電気事業者に通知する体制だ。広域機関は各事業者から需要計画や調達・販売計画の情報を随時取得する立場にあるため、需給状況に合わせてネガワット取引の情報を集約することで適切な運用を図ることが可能になる。

 あるいは広域機関に代わって地域ごとに一般送配電事業者(電力会社の送配電部門)がネガワット取引の情報伝達の役割を担う可能性もある。いずれの場合もネガワット取引を実施するにあたっては、前日の午前12時(正午)までにベースラインの情報を含む需給計画を事業者間で共有する必要がある(図7)。

図7 事業者間の情報伝達スケジュール(画像をクリックすると契約時を含めて全体の流れを表示)。GC:ゲートクローズ(需給計画の最終提出期限)。出典:資源エネルギー庁

 さらにネガワット取引を実施する1時間前の段階で最終的な計画値を確定して、実際の需給調整は一般送配電事業者が責任をもって実施する。その後で一般送配電事業者からネガワット事業者に節電した電力量の実績値を通知して、実績値をもとに小売電気事業者のネガワット調整金と需要家の報奨金を算定する流れになる。

第64回:「電力のネガワット取引で国の方針が決まる、取引単位や調整金の計算方法」

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