リチウムイオン電池の高性能化へ突破口、鍵は「燃えない電解液」太陽光(2/2 ページ)

» 2016年07月04日 09時00分 公開
[陰山遼将スマートジャパン]
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高電圧を実現、しかも安全

 開発した難燃性電解液を理化学研究所のスーパーコンピュータ「京」を利用して第一原理分子動力学計算を行ったところ、従来の高濃度電解液と比較してより濃度が高いリチウムイオンとアニオン(マイナスイオン)を含んでいることが明らかになった。全ての有機溶媒分子がリチウムイオンに配位した状態となっているため、既存の有機電解液と比べて著しい低揮発性・難燃性を示すことが分かった。つまり、リチウムイオン電池の発火を防ぎやすくなるなど、安全性の向上にも貢献できる(図2)。

図2 既存の有機電解液と新設計の高濃度電解液の比較。図=右は溶液構造のイメージ 出典:東京大学

 こうした特殊な液体構造によって、高電圧作動時に発生する副反応が抑制されることも分かった。具体的には正極表面における電解液の分解反応、電子の通り道となるアルミニウム集電体の腐食反応、正極からの遷移金属イオン(マンガンイオンなど)の溶出などを抑えることができたとしている。負荷特性も良好であり、実験では室温以上で100回以上充放電を繰り返しても、90%以上の容量を保持できた。電圧はこれまでの平均電圧が3.7Vであるのに対し、平均電圧4.6Vを発生させることができたという(図3)。

図3 作動電圧4.6Vのリチウムイオン電池における充電・放電サイクル特性 出典:東京大学

 今回の成果について研究グループは「既存の有機電解液に起因するリチウムイオン電池の発火の危険性が低下するとともに、作動電圧限界が撤廃される。さらに既存の製造ラインもそのまま活用することができるため、高安全かつ高電圧のリチウムイオン電池の開発が現実性を伴って加速する」としている。研究グループでは今後、高濃度電解液が示すさまざまな新機能の発現メカニズムのさらなる解明を進め、高濃度溶液科学の体系化・深化を進めるとともに、実用化に向けた問題抽出とさらなる高機能電解液の探索を行っていく予定だ。

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