この実証実験で興味深い結果が得られたのは、フロートの形式と太陽光パネルの設置角度による差である。素材や構造の違う3種類のフロートでは、パネルの設置角度を12度で統一した場合には年間の発電量にほとんど差がつかなかった。発電量が最も多かったのは3つ目の発砲スチロール充填式だが、ほかの2種類と比べて3%の差に過ぎない(図5)。
一方で3つ目のフロートで試した3通りのパネル設置角度による差は大きく出た。傾斜が大きい30度の場合には、傾斜が小さい5度と比べて1.3倍の発電量になっている。陸上では年間の日射量を最大に受けられる南向き20〜30度にパネルを設置するのが一般的で、ため池の水上でも同様の結果が得られた。
月別の発電量を見ると、パネルの設置角度による違いが大きかったのは7月から10月にかけての気温が高い時期だ(図6)。特に8月の差が大きく、30度のパネルでは発電量が300kWhだったのに対して5度のパネルでは167kWhにとどまった。実に1.8倍の開きである。
日照時間が長い6月には発電量の差がほとんどなかったことから、パネルの設置角度による日射量の差ではなくて昼間の温度上昇による影響とみられる。このほかにもパネルの表面の汚れ具合が5度の場合には顕著で、その点も発電量の低下をもたらしたと農政水産部では分析している。
フロートの形式による発電量の差は7月と8月に少しだけ表れている。3つ目の発泡スチロール充填式の発電量が他の2方式よりも5〜15%多くなった(図7)。発泡スチロール充填式はパイプを組み立てる構造のため、水面と接する部分が広く空いている。水温でパネルの温度上昇を抑えやすかったと考えられる。
フロートの形式やパネルの設置角度によって事業費(導入コスト)も違ってくる。農政水産部が算出した事業費を見ると、2つ目の発砲スチロール製が最も安く、3つ目の発砲スチロール充填式が最も高かった(図8)。さらにパネルの設置角度を30度に傾ける場合には、隣のパネルに日影ができないように設置間隔を広げる必要があり、フロートの面積も大きくなってコストが増える。
年間の発電量と事業費の組み合わせで最も効率が良いのは、2つ目の発泡スチロール製のフロートを使って、太陽光パネルを30度に設置した場合だ。この組み合わせは実証実験で検証していないため、あくまでも試算上の比較結果である。ただしコストが安く済む半面、発泡スチロール製のフロートは固定用のボルトが欠落するなどの問題が発生した(図9)。農政水産部では耐久性に不安がある点を指摘している。
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