電力の8割を自給自足する先進県、小水力発電と木質バイオマスが活気づくエネルギー列島2016年版(16)長野(3/4 ページ)

» 2016年08月09日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

木質チップをガス化して電力と熱を作る

 長野県で最も北にある栄村(さかえむら)では、木質バイオマス発電所の建設が進んでいる。村の面積の86%を占める森林の資源を生かしてエネルギーの地産地消に取り組む計画だ。すでに地元の森林組合が製材工場の敷地内に木質チップの製造設備を導入して、発電用の燃料を供給する体制ができあがっている(図9)。

図9 栄村森林組合の木質チップ製造現場。出典:栄村役場

 栄村で実施する木質バイオマス発電はチップを高温で燃焼してガスを発生させる。同様の発電装置は南部の伊那市で2015年6月に運転を開始した「かぶちゃん村森の発電所」で導入した実績がある(図10)。ガスを冷却してから発電に利用する方法で、電力と合わせて排熱もエネルギーとして利用できる点が特徴だ。

図10 木質バイオマスによるガス化発電装置の構成(上)、「かぶちゃん村森の発電所」のガス化発電装置(下)。出典:ZEエナジー

 製材工場の隣接地に建設中の発電所は2016年12月に運転を開始する予定である。発電能力は500kWになり、年間の発電量は396万kWhを見込んでいる。一般家庭の1100世帯分に相当する電力を供給できて、栄村の総世帯数(780世帯)を上回る。

 中部の安曇野市(あずみのし)の農園では、さらに大規模な木質バイオマス発電設備が動き出している。ガス事業を手がけるエア・ウォーターがトマトを栽培する農園の敷地内に、「安曇野バイオマス・エネルギーセンター」を2016年5月に稼働させた(図11)。地域の森林で発生する間伐材などを燃料に使って電力と熱を供給する。

図11 「安曇野バイオマス・エネルギーセンター」の外観(上)、燃料に利用する原木の貯蔵ヤード(下)。出典:エア・ウォーター

 このエネルギーセンターの木質バイオマス発電設備でも、チップを燃焼してガスを発生させる方式を採用した。発電能力は1900kWで、熱の出力は電力に換算して3800kWに相当する。年間の発電量は3000世帯分になり、一部を自家消費する以外は中部電力に売電してエネルギーセンターの運転維持費にあてる方針だ。

 電力と同時に発生する熱から温水を作って、トマトを栽培するガラスハウスに供給する(図12)。今後は木質チップの燃焼時に生じる二酸化炭素を利用することも検討中で、トマトの光合成を促進する用途に生かす考えだ。このほかに燃焼後の炭を木質チップの乾燥に利用するなど、エネルギーを地産地消するメリットを最大限に発揮していく。

図12 木質チップをガス化して電力と熱を供給する仕組み。出典:エア・ウォーター

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