規制価格と市場価格、スペインはダブルスタンダードが残る電力自由化、先行国はこう動いた(2)(1/5 ページ)

2016年4月の電力小売全面自由化により日本の電力市場は大きく変容を遂げようとしている。ただ世界には多くの電力自由化先行国が存在する。先行した国々ではどういう変化が起こったのか。こうした変化を紹介するとともに日本のエネルギー産業における将来像を探る。第2回は、スペインの電力自由化後の動向を紹介する。

» 2016年08月29日 09時00分 公開
[グザビエ・ピノン/セレクトラスマートジャパン]

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スペインにおける自由化の過程

 1997年にスペイン産業省と主要な電力事業者間で協定が結ばれてから以降、スペイン政府はエネルギー市場の自由化を優先事項の一つに設定した。この政府の意向は翌年1998年の電力に関する法令(Electricity Power Act)となって実現された。この法令では発電・小売事業と送電・配電事業とをはっきり区別することが示されている。発電・小売事業に関しては段階的に自由化され、送電・配電事業に関しては規制システムがそのまま残るという内容のものであった。

 このような法令が決められたにもかかわらず、自由化がスペインで実際に行われるまでには10年以上もかかった。2008年に天然ガス市場の自由化が行われ、翌2009年には一般家庭向けの電力市場がそれに続き自由化された。スペインの電力自由化における特徴は、結局自由化された市場と、規制の残された市場との2つが存在することになった点である。具体的には、契約容量が10kW以下の電気の使用量の少ない契約者のみが規制料金で契約できるというのが規制料金市場で、それ以外の需要者は自由価格による電気契約が必要となる市場ということになる。

 2009年の電力自由化、スペイン語でいう「liberalizacion」以前のスペインエネルギー市場では大手5社(ガス・ナトゥラル・フェロサ、エンデサ、イベルドローラ、イドロカンタブリコ、ビエスゴ)が市場の主要プレーヤーとして存在し、小規模な事業者がいくつか地方レベルで存在する、という状態であった。そして、これらのスペインの電力会社は既に民間企業であったため、他国のように電力会社を「民営化」するというプロセスは不要であった。

 2009年以降の電力市場規制と競争に関する主な出来事について振り返ってみよう。

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