トンネル掘削を中断せずに前方探査が可能に、掘削振動の反射波を利用情報化施工

清水建設は、掘削作業を中断することなく、日常探査が可能な切羽前方探査システム「S-BEAT」を開発した。

» 2016年08月31日 06時00分 公開
[長町基BUILT]

 清水建設はこのほど、山岳トンネル施工のさらなる生産性向上を目的に、掘削作業を中断せずに切羽前方50〜100メートル先までの地山状況を三次元的に探査するシステム「S-BEAT」を開発した。同システムはトンネル掘削振動の反射波を利用するもので、既に複数のトンネル現場で試験適用を行っており、その探査機能の有効性が確認されているという。

 S-BEATは、自社開発の切羽前方探査手法を改良・高機能化したもの。従来手法の探査機能は、切羽の直進方向における地山性状の変化点を推定するものだったが、同システムは上下・左右方向の変化点位置を含めて探査することができ、トンネル周辺の三次元的な地山性状の予測が可能だ。また、掘削作業に使用する資機材を探査に利用するため導入が容易で、日常的に使用でき、同システムによる探査を切羽の進行に合わせて繰り返すことで、予測精度の向上を図ることが可能だ。

 山岳トンネル工事を安全で効率的に進めるためには、切羽前方の地山性状を事前に把握し、状況に応じた適切な施工計画を立案する必要がある。確実な地山探査の手法は、先進調査ボーリングなどにより地山の性状を直接確認することだが、掘削作業の中断を伴い、費用も高額なため、頻繁に実施することは難しい。そこで、S-BEATを活用して切羽前方の地山状況を日常的にモニタリングし、詳細調査が必要な劣化部を検知した場合に限り、ボーリング調査を実施することで、掘削工程に与える影響と探査費用を最小限に抑えることができる(図1)。

photo 図1 「S-BEAT」による前方探査のイメージ 出典:清水建設

岩盤性状の変化点で反射する特性を利用

 S-BEATの探査原理は、地山を伝わる振動が岩盤性状の変化点で反射する現象を利用し、トンネル内で観測した振動データから地山内の反射面の位置を推定する反射法弾性波探査を応用したものだ。同システムでは、油圧ブレーカーの掘削振動を起振源、トンネル側壁に一定間隔で打ち込まれた複数の既設ロックボルト頭部を受振点とすることで、データ計測の簡素化を図った。システムの設置作業は、受振センサーをロックボルト頭部に装着し、受振データを記録・保管するデータロガー、データ解析ソフトを組み込んだPCにケーブル接続するだけで完了する。システム設置から計測、撤収までに要する時間は30分未満で、掘削作業に並行して準備を行い、工事を中断せずにデータ取得を行うことが可能だ。

 計測終了後、受振点で検知した打撃振動データから、発振点から直接伝わる直接波と、地山の反射点から戻ってきた反射波を抽出。受振点への到達時間差から導かれる打撃振動の伝わる速度を基に、発振点から受振点に至る反射波の伝わる距離を算出する。ここで、反射波の反射点は、発振点と受振点を焦点とする楕円体(等走時楕円)の面上にあると考えられることから、受振点ごとに等走時楕円を描き、これらを重ね合わせることで、共通反射点を割り出す。この共通反射点の推定結果と、切羽に近い受振点に配置した3成分(トンネル軸・直交・上下方向)受振センサーの波形データから推定した反射波の到来方向を総合的に評価し、反射点の三次元分布を予測する。

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