消費者は二の次、国の経済事情で自由化に進んだポルトガル電力自由化、先行国はこう動いた(3)(5/5 ページ)

» 2016年09月28日 09時00分 公開
[グザビエ・ピノン/セレクトラスマートジャパン]
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ポルトガルの電力会社の切り替えは?

 ポルトガルは周知のように、2010年に大きな経済危機を経験し、今も全く景気はよくなっていない、国外(主にブラジル)に職を求めポルトガルを離れる人も多く、人口も減少傾向にある。さらに出生率は日本よりも低く、国の状態は極めて深刻である。

 先述したように、国際通貨基金(IMF)と欧州連合(EU)からの支援を受け入れるために、REN(送電企業)の民営化にせまられ、結果中国、オマーンに株価を売却することでそれが成し遂げられたという背景もある。

 もちろん経済危機は家庭にも影響を及ぼしており、電気料金の未払いが多く、電力会社を悩ませ続けている。新電力は積極的なマーケティングを行い、EDPの占める大きなシェアを切り崩していきたいものの、電気の料金未払いの問題が常にあるため、大々的なキャンペーンを打って、とにかく顧客を獲得するような大胆な戦略に打って出られないというジレンマに陥っている。

 ポルトガルでも電気料金を比較し、切り替えるという消費者は増えているものの、電気市場にかかわらず国全体の景気が悪いため、それほど盛んであるとはいえない。現在、ポルトガルで電気料金・ガス料金比較サイトを提供しているのは、Lojaluz1社に限られている。

ポルトガルの電力自由化事情から日本を考える

 ポルトガルにおける電力自由化と日本のそれとはあらゆる側面で異なる。もともとEUの法案主導でポルトガルでも電力自由化がすすめられたのは、他のヨーロッパの諸国と大きな違いはない。しかし、再生可能エネルギーの促進は燃料輸入による赤字対策が主な原動力であったこと、RENの民営化も経済的な援助を得るために行われた結果であるということは、全てポルトガルの経済状況が苦しいことに集約することができる。

 一方、MIBELの設立により、イベリア半島による電力システムの効率化が実現され、電力ビジネスの拡大などスペインとポルトガルの両国にとって、好ましい結果を生み出した。日本ではとにかく消費者にとっての影響が注目されがちだが、ポルトガルの事例をみるとあらためて電力システムの改革は国全体の方向性に大きな影響を及ぼす大きなイベントであることが理解できる。

連載「電力自由化、先行国はこう動いた」の目次

筆者プロフィル

グザビエ・ピノン(Xavier Pinon) セレクトラ(selectra)共同創業者・代表

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 パリ政治学院・コロンビア大学にて修士号。東京大学に留学経験を持つ。戦略コンサルタント業務に従事したのち、在学中に立ち上げた電気・ガス料金比較サービス会社セレクトラの業務に本格的に携わり、同社をヨーロッパ最大手に成長させる。現在フランスを中心に欧州7か国でサービスを展開、欧州での経験をもとに2016年5月に日本(セレクトラ・ジャパン:http://selectra.jp/)でのサービスを開始。


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