タワーの屋上から地上まで200m余りの距離だが、地表面の近くは熱の影響で大気の乱れが大きい(図5)。その条件の中で、富士山頂の4mmの針穴を通すのと同じ精度でレーザーを伝送することが目標になる。JAXAが開発したレーザービームの方向制御の仕組みは、回転ミラーを使ってずれを補正する方法である。
宇宙から地上の特定の場所まで正確にレーザーを到達させるために、地上から誘導用の「パイロットレーザー」を宇宙の人工衛星に送り、その方向に対して高出力のレーザーを照射して地上まで伝送する。この間に大気の乱れ(ゆらぎ)によってレーザービームの方向がずれるが、人工衛星に装着した回転ミラーで補正する仕組みだ(図6)。
JAXAの実験システムでは、パイロット用の小出力のレーザーだけを透過するミラーを使った(図7)。小出力のレーザービームの乱れを計測してミラーを制御する。伝送用の高出力のレーザーは方向を補正した状態のミラーで反射して、光を電力に変換する装置へ正確に送ることができる。
この実験を通じてレーザービームの方向制御の正確さと、伝送できる電力の大きさを測定した。ビーム方向制御の精度は目標の1μRADよりも少し大きい約2.5μRADに収めることができた(図8)。これは200mのタワーの下で0.5mmのずれに相当する。今後さらに精度を向上させていく。
一方の電力伝送は出力340W(ワット)のレーザーをタワーの屋上から地上の光電変換装置まで送り、変換後に60Wの出力を得られることを目標に設定した。実験では最大で74.7Wまで出力を高めることができて、高出力のレーザーによる送電が可能なことを実証した。
JAXAは実証実験の結果から、レーザービームの方向を高精度に制御して宇宙から地上まで伝送できる技術の実現にめどをつけた。電力伝送の効率は22%(74.7W/340W)だったが、今後は伝送システム内の光の損失低減などを図り、35%まで引き上げることを目指す。
実際に小型の衛星を使った宇宙太陽光発電システムの実証は2020年代に開始する計画で、2030年代にはMW(メガワット)級の発電システムを実用化することが国の目標になっている。伝送技術が着実に進歩して実現に近づきつつある。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.