大都市で生かす下水のエネルギー、バイオガス発電から熱まで供給エネルギー列島2016年版(27)大阪(2/4 ページ)

» 2016年10月25日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

下水の熱を空調に生かす全国初の試み

 下水のエネルギーを利用する方法はバイオガス発電だけにとどまらない。大阪市の南に隣接する堺市では、下水を処理して作る再生水の熱を利用する事業に取り組んでいる。通常は下水の再生水をトイレの洗浄水などに使う。堺市の「三宝下水処理場」では再生水の熱を使って温水を作り、その過程で温度が低下した再生水を冷房に利用する全国で初めての試みを実施中だ(図4)。

図4 下水再生水の熱利用事業の全体像(上、画像をクリックすると拡大)、導入場所(下)。出典:堺市ほか

 下水処理場から1キロメートルほど離れた場所にある商業施設の「イオンモール堺鉄砲町」まで、再生水を送水管で送って熱源として利用できる。下水の再生水は夏に冷たくて冬に温かい特性があるため、給湯や空調のエネルギー源として利用すると効果は大きい。2016年3月からイオンモールの施設内で運用を開始した。

 自然の熱をエネルギー源に利用する取り組みは、大阪市の中心部にあるJR大阪駅の隣接地でも計画中だ。貨物駅の跡地を再開発する「うめきた2期区域」の先行プロジェクトとして、地中熱を利用した実証事業を産学官の連携で2015年度から進めている(図5)。地中に広がる帯水層から地下水をくみ上げて、その熱を建物の冷暖房に生かす方法だ。これも全国で初めての試みである。

図5 「うめきた2期区域」の立地(上)、地下の帯水層を利用した蓄熱システムの仕組み(下)。出典:大阪市、関西電力ほか

 関西電力を中心とするプロジェクトチームが2016年10月に工事に着手した。建物の下に深さ15メートル以上の井戸を2本掘って、夏には冷房の排熱を地下の帯水層に溜めておく。その温かい水を冬にくみ上げて暖房に利用する仕組みだ。逆に冬の暖房で発生する冷熱を別の井戸から地下の帯水層に送って、夏になったら冷房に利用する。地中の温度は年間を通じて一定に保たれるため、帯水層に溜めた温水や冷水の温度を維持しやすい。

 2017年1月には工事を完了して実証運転を開始する予定だ。実証運転を通じて熱利用の効率や地盤沈下の影響などを評価しながら実用化を目指す。うめきた2期区域では2022年をめどに、最先端のエネルギー・通信システムを導入して環境に配慮したスマートタウンを整備する計画になっている。帯水層の熱利用に加えて、下水の熱利用も構想にある。

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