「太陽熱光起電力発電」で世界トップ級、発電効率5.1%を達成蓄電・発電機器(2/2 ページ)

» 2016年10月27日 07時00分 公開
[陰山遼将スマートジャパン]
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2つの新しい概念を提案

 今回の研究では「熱ふく射のスペクトル制御」と「熱ふく射の一方向への輸送」という概念に基づいた熱ふく射の変換・輸送効率を新たに提案。Solar-TPVシステムでは、太陽光が太陽光選択吸収材料において一度熱に変換された後、波長選択エミッタからの熱ふく射に変換される。つまりSolar-TPVは光子から光子への波長変換システムであり、同様に太陽光を熱に変換する従来の集光型太陽熱発電とは異なる。そのため、Solar-TPVシステムでは吸収した太陽光のエネルギーを損失なく波長選択エミッタのみに輸送すること、つまり、高い熱ふく射の変換・輸送効率を達成することが重要になる。

 さらに高効率なSolar-TPVシステムを達成するためには、波長選択エミッタからの熱ふく射スペクトルが光電変換セルの感度波長域にマッチングしていること、つまり高い光電変換効率を達成することが重要になる。この2つの効率は太陽光選択吸収材料と波長選択エミッタの光学設計と幾何学設計により高めることが可能だという。理想的には、太陽光選択吸収材料は太陽光スペクトルの強度が強い短波長域で高い吸収率を持ち、長波長域では低い放射率(吸収率)を持つことが求められる。これにより、放射損失が小さく高い熱輸送効率が期待できる。一方で、波長選択エミッタは光電変換セルの感度波長域において高い放射率を持ち、それ以外の波長域では低い放射率を持つことが求められる。

 研究グループは新たに提案した熱ふく射の変換・輸送効率に基づき、光学設計と幾何学設計を行った。作製した太陽光選択吸収材料と波長選択エミッタでは、より高い熱ふく射の変換・輸送効率を得るため面積比を持たせ、太陽光選択吸収材料からの反射・放射損失を抑制している。その結果、熱ふく射輸送効率54%、光電変換効率28%が期待できる太陽光選択吸収材料と波長選択エミッタの設計と作製に成功した。そして作製した太陽光選択吸収材料、波長選択エミッタ、ガリウムアンチモン光電変換セルを用いた発電試験で、世界トップレベルの発電効率5.1%を達成した。

 今回の成果について研究グループは「熱ふく射の変換・輸送効率をさらに向上させることで、Solar-TPVシステムのさらなる高効率化が期待できる。さらに熱ふく射のスペクトル制御や熱ふく射の一方向への輸送はSolar-TPVのみならず、未利用エネルギーの有効利用に関連してさまざまな分野への適用が可能な概念である」としている。

 なお、この研究の一部は化学技術振興機構「先端的低炭素化技術開発(ALCA)」のプロジェクトの一環として実施され、科研費の助成を受けた。成果の詳細は2016年10月25日付で科学誌「AppliedPhysicsExpress」に掲載され、同誌のSpotlights論文にも選出されている。

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