人工光合成の新機軸、二酸化炭素からペットボトルを作れるか自然エネルギー(4/4 ページ)

» 2016年11月04日 11時00分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]
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精妙な働きを見せる分子触媒

 東芝はどのような反応が進むのか、仮説を立てて検証した。まず問題の炭素に金電極から電子が1個供給されて、水素原子が外れる(脱プロトン化)*3)

 外れた水素の代わりに、二酸化炭素と水素イオンが結合し、カルボキシル基(−COOH)となる。図4の左上が初期状態、右上がカルボキシル基に変化した状態を示す。黄色で描かれた部分が金電極だ。

*3) 金電極から問題の炭素にはアルキル鎖を通じてトンネル電流が流れる。

図4 イミダゾリウム塩誘導体の機能 アルデヒド基が結合した状態は描かれていない 出典:東芝

 さらに電子が2個、供給されて、カルボキシル基が還元され、電解液中の水素イオンを得てアルデヒド基(−CHO)となる*4)

 イミダゾリウム塩誘導体が特に優れているのは、この後の反応だ。

 図4の右上に示したように、ごく接近して隣り合ったイミダゾリウム塩誘導体が4個の電子を得て還元され、4個の水素イオンを得て、二量体となり、図右下のように即座にエチレングリコール1分子を放出する。同時にイミダゾリウム塩誘導体は最初の構造に戻る。つまり原料物質と電流が得られる限り、エチレングリコールを作り続けることが可能なのだ。

*4) カルボキシル基が付いた2つのイミダゾリウム塩誘導体からシュウ酸イオン(C2O42−が生成し、シュウ酸イオンが還元されてエチレングリコールが得られる反応も考えられる。論文では検討の結果、この反応は起きていないと結論付けている。

さらなる改善を求めて

 2015年9月の時点では、エチレングリコールを作り出すために外部から電力を供給していた。太陽電池が電力を供給するシステムを設計後、まず、エネルギー変換効率0.16%を達成。今回、同0.48%まで改善できた。

 金基板上に高密度でイミダゾリウム塩誘導体を吸着させたことが効率改善に効いているという。「内容は公表できないものの、高密度に吸着させる手法が今回の開発の肝といえる」(東芝)。

 同社は今後、効率をより高めていき、2020年代の実用化を目標として技術開発を続ける。社内の複数の研究チームが競う形だ。

 「一酸化炭素を合成する研究チームと、エチレングリコールを合成する研究チームは同じ開発部隊に属しているものの、別々に研究を進めている」(東芝)。一酸化炭素の合成効率も高まっている。「2014年12月時点に発表した1.5%から、現時点では2.0%に向上した」(東芝)。

【訂正】 記事の掲載当初、3カ所に誤りがありました。訂正箇所は以下の通りです。2ページ目で「炭酸水素カリウム(KHCO3)」としておりましたが、正しくは「炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)」でした。3ページ目で「一酸化炭素や水素ガスが発生せず、エチレングリコールのみが得られた」としておりましたが、正しくは「一酸化炭素は発生せず、エチレングリコールが得られた」でした。水に由来する副生成物として水素ガスが少量発生します。4ページ目の注4に「アルデヒド基が付いた」としておりましたが、正しくは「カルボキシル基が付いた」でした。お詫びして訂正いたします。上記記事は既に訂正済みです。(2016年11月7日)



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