バイオマス発電で林業に活力を、山深い村には小水力発電が復活エネルギー列島2016年版(29)奈良(2/3 ページ)

» 2016年11月08日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

102年前に稼働した小水力発電所を再生

 吉野地域の山深い場所には、今から102年前の1914年(大正3年)に運転を開始した小水力発電所がある。地元の有力者が建設した「つくばね(筑波峰)発電所」で、発電能力は45kW(キロワット)だった。電力の供給を通じて地域の発展に貢献した後、老朽化のため1963年に停止したままの状態になっていた。この古い小水力発電所を再建するプロジェクトが地元の有志を中心に2013年から進められている(図4)。

図4 「つくばね発電所」の建設計画。出典:東吉野水力発電

 現在も残っている1キロメートル以上に及ぶ導水路を生かして川から水を引き込む。導水路から発電所までの水圧管路と発電設備を新たに建設中だ(図5)。すでに工事は最終段階を迎えていて、まもなく運転を開始できる。

図5 建設中の発電所(上)、工事中の水圧管路(下)。出典:東吉野村小水力利用推進協議会
図6 クロスフロー型の水車発電機。出典:ミュージックセキュリティーズ

 発電能力は以前の2倍近い82kWになる。水量は毎秒0.1立方メートルと少ないものの、山の上から発電所まで105メートルの落差を利用して発電能力を高めた。水車発電機には少ない水量でも効率よく発電できるチェコ製のクロスフロー型を採用した(図6)。

 年間の発電量は64万kWhを見込んでいる。一般家庭の180世帯分に相当する電力になり、発電所がある東吉野村の総世帯数(960世帯)の2割に相当する。

 発電した電力は売電して、得られた収益を村の活性化や林業の支援に役立てる方針だ。建設資金の一部は市民が出資するファンドで調達した。募集総額5250万円に対して、全国から274人が参加して小水力発電事業を支援する。

 奈良県の再生可能エネルギーは太陽光・中小水力・バイオマスの3種類が増えてきた(図7)。中小水力では浄水場などの水道設備を利用した導入事例も広がり始めている。代表的な例は生駒市にある「山崎浄水場」の小水力発電に見ることができる。2013年3月に運転を開始して、水道事業では全国で初めて固定価格買取制度の適用を受けたプロジェクトだ。

図7 固定価格買取制度の認定設備(2015年11月末時点)

 山崎浄水場から74メートル高い場所に、上流から水を供給するための調整池がある。調整池から浄水場に送る水の圧力は標高差によって高くなるため、従来は減圧施設で水圧を下げていた。代わりに浄水場内の水道管に発電機を導入して、発電機を回転させる力で減圧する仕組みに変更した(図8)。

図8 「山崎浄水場」の小水力発電(上)、発電所の建屋と水車発電機(下、画像をクリックすると拡大)。出典:生駒市上下水道部

 ポンプを逆回転させる水車発電機を使って発電能力は40kWある。年間の発電量は35万kWhになり、一般家庭の約100世帯分に相当する。総事業費は1億4000万円かかったが、固定価格買取制度の適用を受ける20年間の合計で8000万円の利益を見込んでいる。得られた利益で浄水場の維持費を軽減できる。

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