ニワトリ小屋との共通点は? 効率21.7%のペロブスカイト太陽電池太陽光(2/3 ページ)

» 2016年11月16日 13時00分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]

ニワトリ小屋の網を利用

 これまでの試作品の変換効率が高くなかった理由として、研究チームが考えた原因はこうだ。

 2層の異なるペロブスカイト材料が計算通りに機能すれば、高い変換効率が得られる。こうならないのは、2層の間で金属イオン(カチオン)が移動し、1種類のペロブスカイト層に変わってしまったのではないか。エネルギー分散型X線分析装置(EDAX)を利用して、垂直方向に200ナノメートル(nm)の範囲を観察したところ、確かにこのような移動が起こっていた。

 これを避けるために今回導入したのが、原子1つの厚みしかない六方晶窒化ホウ素膜(h-BN)だ。h-BNは炭素が六角形状に連なるグラフェンと似た構造を採る。ちょうどニワトリ小屋の網のようにイオンの移動を防ぐ。EDAXで観察したところ、材料に含まれるスズ(Sn)や鉛(Pb)のイオン移動を確かに妨げていた。

 図2は、試作セルの断面構造だ。肌色と茶色の部分が2種類のペロブスカイト材料を示し、その間に六方晶窒化ホウ素膜(Monolayer h-BN)をはさみこんだ形だ。

図2 試作セルの断面構造 星印で示した2つのペロブスカイト層(発電層)の厚みは合計して約450nm 出典:University of California at Berkeley

2層で太陽光をもれなく吸収

 太陽電池に使う半導体が太陽光を吸収し、電力に変えることができるのは、半導体固有のバンドギャップという性質による。ある半導体を指定するとバンドギャップは1つの数値に定まる。

 バンドギャップが小さいと、より赤みを帯びた光を効率的に吸収でき、太陽電池の出力電流が増える。バンドギャップが大きいとより青みを帯びた光から高いエネルギーを吸収でき、出力電圧が高まる。

 従って、上層と下層に異なるバンドギャップを持つ半導体を配置すれば、太陽電池の出力が大きくなる。ここまでは多接合太陽電池の一般的な考え方だ。

 今回の試作セルに当てはめると、上層と下層にバンドギャップが1電子ボルト(ev)と2eVとなるペロブスカイト材料を配置した。それぞれ黄色い光と赤外線を優先的に吸収する。

段階的バンドギャップを実現

 パークレー校の研究者の戦略は、さらに一歩先を行く。単純な多接合を超えた「段階的バンドギャップ(graded bandgap)」の実現だ。

 多接合太陽電池では、2層よりも3層、3層よりも4層の方が変換効率は高まる。製造コストを除外して考えれば太陽電池として有利だ。

 この考え方を推し進めていくと、バンドギャップが段階的に変化するような構造に至る。電圧と電流の両方を十分高めることができ、変換効率の理論上限が現状よりも大幅に高くなる。

 だが、ペロブスカイト材料を用いて、段階的バンドギャップの作成に成功した報告はこれまでなかったという。ペロブスカイト層同士の間でイオンが移動してしまうからだ。これは先ほど紹介したEDAXによる検証でも明らかだ。

 バークレー校の研究者が採用した六方晶窒化ホウ素は、イオンの移動を妨げるだけでなく、段階的バンドギャップ構造を作り上げる際に決定的な役目を果たしているのだという。

 バンドギャップが固定された半導体にさまざまな波長の光を照射すると特定の狭い範囲で電力を生み出す。六方晶窒化ホウ素を用いない場合は、ペロブスカイト材料が含むヨウ素(I)の比率を変えることで、バンドギャップを制御できる。ヨウ素の比率が低いほどバンドギャップが広がり、より波長の短い(青い)光を効率よく利用できる(赤い光を利用できなくなる)。

 ところが、六方晶窒化ホウ素膜を用いると、バンドギャップが段階的に変化する状態を作り出すことができ、波長400nm(紫色に相当)から1300nm(近赤外線に相当)まで幅広い範囲で電力を生み出すことが分かった*4)。長い波長の光吸収が可能になったことが特徴だ。後ほど紹介するグラフェンエアロジェルも、バンドギャップを段階的に変えることを助けていた。

 研究者によれば、段階的バンドギャップ構造を作ることができたため、六方晶窒化ホウ素膜を増やして、3接合以上の多接合太陽電池セル構造を工夫する必要がなくなった*5)。これは製造コストを引き下げる際に大いに役立つ利点だ。

*4) 光が電力を生み出す効率を意味する外部量子効率(EQE)が、この範囲で80%以上となったこと、同時に窪みや出っ張りなどがほとんどないグラフを描いたことからこのように結論付けている。
*5) 多接合セルでは、複数層で電流値を一致させる工夫や複雑な配線が必要になる。今回の手法ではどちらも必要ない。

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