委員会が特に問題視している点は、東京電力EPが相場操縦の可能性を十分に認識していたにもかかわらず、長期間にわたって不当な行為を繰り返していたことだ。「格別な意図があった」と指摘している。これに対して東京電力EPは「相場操縦の意図は一切ありませんでした」と反論しながらも、閾値による売り入札を9月まで実施していたことを認めている。
政府は電力の小売全面自由化を実施する直前の2016年3月7日に、発電・送配電・小売の全事業者を対象に取引を規定するガイドライン「適正な電力取引についての指針」の内容を改定している。小売全面自由化を機に多数の事業者が参入してくるため、公正な競争を促進するうえで「問題となる行為」を追加した。その中にインサイダー取引などと合わせて相場操縦が入っている(図4)。
ガイドラインでは相場操縦の対象として3種類の行為を挙げている(図5)。このうち東京電力EPの行為は第2項の「市場相場を変動させることを目的として市場相場に重大な影響をもたらす取引を実行すること」に該当すると委員会は判断した。
具体的にはどのような行為が市場相場に重大な影響をもたらすのか。ガイドラインでは5つの例を挙げている(図6)。その最後の5番目の例として、「本来の需給関係では合理的に説明することができない水準の価格につり上げるため売惜しみをすること」と書いてある。
本来の需給関係という観点では、小売電気事業者は毎日の需給バランスを見ながら、不足分を市場で買い、余剰分を市場で売る。余剰分を売る場合には、発電事業者が電力を1kWh(キロワット時)追加するために必要なコスト(限界費用)に基づいて入札価格を決める方法が通常だ。ただし発電設備の限界費用は電源の種類によって違う。
火力発電でも燃料費の安い石炭から燃料費の高い石油まで、限界費用は段階的に高くなっていく(図7)。このうち限界費用が最も安い発電設備の電力から順番に市場で売るものだが、それよりも高い閾値で東京電力EPは売り入札を実施していた。この方法を駆使して、市場で取り引きする電力の価格を自社の小売原価と同等の水準になるように「人為的に操作していた」と委員会はみなした。
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