人工光合成に新技術、気体のCO2と太陽光でメタンを生成自然エネルギー

太陽光と水と二酸化炭素から有用物質を作り出す人工光合成の研究成果が続々と登場している。昭和シェル石油は常温常圧下でエチレンや天然ガスの成分であるメタンを生成することに成功。気体のままCO2を利用できるのが特徴で、植物と同等レベルの変換効率を達成したという。

» 2016年12月07日 07時00分 公開
[陰山遼将スマートジャパン]

 昭和シェル石油は2016年12月5日、ガス拡散電極を利用し、常温常圧下で水と二酸化炭素(CO2)から太陽光のエネルギーだけでメタンとエチレンを合成することに成功したと発表した。人工光合成技術の1つで、常温常圧下で太陽光のエネルギーのみで炭化水素などの有用な物質を生成できたのは「世界初」(同社)としている。

 「パリ協定」の発行などを筆頭に、地球温暖化対策としてCO2の削減に向けた取り組みが加速している。こうしたCO2排出量の削減に貢献する新技術として注目されているのが人工光合成である。人工光合成は太陽光とCO2、水を用いて燃料や資源などの有用な物質を作り出す技術。再生可能エネルギーを利用し、なおかつCO2を削減しながら有用物質を生み出せる技術として注目されており、研究開発が進んでいる。

 昭和シェル石油が生成に成功したのは、エチレンと天然ガスの主成分であるメタンだ。この成果の大きな特徴なのが、燃料電池などで使用されているガス拡散電極を用い、気体のままのCO2を利用することを可能にした点である。同社によれば多くの人工光合成の研究ではCO2を一度水に溶かした状態で変換する方式を採用している。しかし、原料となるCO2が少量しか水に溶けないため、変換が難しいという課題があった。

 今回の研究では、独自に開発した触媒を使用したガス拡散電極を用い、光陽極には半導体光触媒とソーラーフロンティア製のCIS薄膜太陽電池との積層構造を利用した電極を用いた。この2つの電極を利用し、常温常圧の環境で疑似太陽光を照射した(図1)。

図1 今回の研究開発のイメージ(クリックで拡大)出典:昭和シェル石油

 その結果、メタンを太陽光エネルギー変換効率0.61%とエチレンを同0.1%で合成することに成功したという。2つを合計すると、今回の研究における炭化水素への太陽光エネルギー変換効率は0.71%。実際の植物が光合成により水と空気中のCO2からデンプンなどの炭水化物を生成する効率は一般的に0.1〜2.5%程度とされていることから、同社は「自然界の植物の光合成と同レベル」を達成したとしている。

 昭和シェル石油は、今回利用した気体のCO2を利用できるガス拡散電極を用いた人工光合成の研究をさらに進め、2030年までにCO2から高効率で炭化水素やアルコールなどの有用物質を製造する技術を確立する方針だ。

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