電力会社に再編を促す東京電力の改革案、発電・送配電の統合は必至電力供給サービス(2/3 ページ)

» 2016年12月22日 07時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

持株会社の原子力発電・再エネ事業を分離

 東京電力は2020年4月の発送電分離を先取りする形で、2016年4月に持株会社を中核とする組織体制へ移行した。福島の廃炉・賠償・除染を含めて原子力事業の全体を持株会社の東京電力ホールディングスで担う一方、火力発電・送配電・小売の3事業を別会社に分離する体制だ(図5)。

図5 東京電力グループの組織体制(2016年4月から)。出典:東京電力ホールディングス

 このうち火力発電の東京電力フュエル&パワーはJERAへ移行することが確実だが、将来をにらむと中部電力以外の火力発電事業をJERAに統合する可能性も大いにある。電力会社の電源構成は地域によって大きな違いがあり、発電事業の価格競争力やCO2(二酸化炭素)排出量の点で課題を抱える電力会社は少なくない(図6)。

図6 電力会社の電源構成(2015年度、画像をクリックすると拡大)。円グラフは発電電力量の比率。出典:経済産業省

 LNG火力を主力に据える東京電力と中部電力の電源構成は似ているため、事業統合によるスケールメリットは明らかだ。電源構成の点で問題になるのは、燃料費の高い石油火力の比率が高い電力会社とCO2排出量の多い石炭火力の比率が高い電力会社である。

 政府は2030年のCO2排出量を国際公約に従って削減するために、国全体の電源構成とCO2排出係数(電力1キロワット時あたりのCO2排出量)の目標値を設定した(図7)。電源の大半を保有する電力会社は目標値に近づける対策を求められている。石油火力を廃止してLNG火力へ移行するのと同時に、LNG火力と石炭火力の発電効率を向上させる必要がある。

図7 エネルギーミックス(2030年度)の電源構成とCO2排出係数の目標値。出典:経済産業省

 LNG火力を拡大するためには海外からの調達力を強化することが不可欠で、1社で対応できなければ他社と共同で取り組まなくてはならない。LNG火力と石炭火力の高効率化に向けた技術開発の面でも共同プロジェクトのメリットは大きい。2020年4月の発送電分離で各社の発電事業の分離が進み、JERAを軸に電力会社の火力発電事業を再編・統合する動きは加速していく。

 同様に原子力発電と水力発電の再編・統合も重要な課題になる。東京電力ホールディングスが発送電分離までに原子力発電と水力発電の事業を分離することは確実だ。水力発電のほかに太陽光・風力・地熱などの再生可能エネルギーによる電源もあり、CO2を排出しないクリーンエネルギーの供給力では日本最大の規模を誇る。

 さらに豊田通商と合弁で運営するユーラスエナジーグループは日本で最大の風力発電事業者である。水力発電を含めて再生可能エネルギーの分野で有力な事業者と組むことによって、拡大するクリーンエネルギーの市場でも競争力を発揮できる。

 一方で原子力発電の再編・統合は難航が予想される。東京電力の原子力発電設備は沸騰水型の原子炉を採用している。同じタイプの原子力発電所を保有する事業者は東北電力・中部電力・北陸電力・日本原子力発電の4社に限られる(図8)。そのほかの電力会社はタイプの異なる加圧水型の原子炉を採用しているため、運転・保守・廃炉を含めて原子力事業を統合するメリットは小さい。

図8 原子力発電所の状況(画像をクリックすると拡大)。BWR:沸騰水型原子炉、ABWR:改良型BWR、PWR:加圧水型原子炉。出典:経済産業省

 東京電力と同タイプの原子炉を採用する4社のうち、東北・中部・北陸電力は原子力発電に依存する度合いが低い。今後も原子力発電所を再稼働させずに電力事業を続けることが可能だ。あえて再稼働がむずかしい東京電力の原子力発電事業と統合する必然性は見あたらない。最終的な手段は原子力発電事業の国有化を通じた再編・統合しかないだろう。

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