中部電力でもシステムの不具合、需要と発電量を7カ月にわたって誤算定電力供給サービス(2/2 ページ)

» 2017年01月06日 11時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]
前のページへ 1|2       

過大な計画値と過小な実績値で計算

 しかも中部電力のシステムで発生した不具合は単純なものではなかった。最初に判明した誤りは、中部電力の小売部門が調達する発電量の計画値をシステム内で過大に計上していた問題だった。揚水式の水力発電所による発電量の計画値を実際よりも多く加算していた(図4)。

図4 中部電力によるインバランスの誤算定。FIT:固定価格買取制度。出典:中部電力

 さらに実績値の算定でも3種類の誤りが見つかっている。FIT(固定価格買取制度)で買い取った電力量の加算漏れをはじめ、小規模な発電設備や他社に対する小口融通の加減算にも漏れが発生して、需要の実績値が過小な状態になっていた。この結果、中部電力エリアの余剰インバランスを本来よりも大きく計算してしまい、そのデータを使って全国のインバランス料金の単価を算定していた。

 単価を決める役割の日本卸電力取引所は全国10エリアのインバランスを30分単位で集計して、「α値」と呼ぶ調整指数を算出することになっている。余剰も不足もなければα値は1で、不足している状態ではα値を1以上に引き上げて単価を高く設定する仕組みだ(図5)。逆に余剰の状態ではα値を1以下に引き下げて単価を低く設定する。電力が余っている状態ではインバランス料金も安くなる。

図5 全国10エリアのインバランスの合計で決める「α値」の設定基準。出典:中部電力

 中部電力が余剰インバランスを実態よりも大きく算定した結果、α値が本来よりも低くなって、単価が低い状態で全国10エリアのインバランス料金を精算してしまった。各エリアでは卸電力取引所の市場価格にα値を掛け合わせたうえで、エリアごとに需給調整に必要なコスト(β)を加えてインバランス料金を計算している(図6)。

図6 インバランス料金の単価算定方法。出典:中部電力

 中部電力は卸電力取引所が算定したα値を使ってインバランス料金を計算して、8月1日の時点で4月分の料金を各事業者に通知した。ところが8日後の8月9日になって、実際に需給調整に必要とした電力量とシステムが計算したインバランスに不一致があることが判明した。

 社内で調査したところ、3カ月近く経過した10月31日になって、揚水式の発電量の計画値に誤りがあることが判明した。2日後の11月2日にシステムを改修したものの、今度はFITによる買取量などにも誤りが見つかった。

 最終的にシステムの不具合の全容を把握できたのは12月14日だった。その6日後の12月20日に、経済産業省にインバランスの誤算定を報告している。すでに4月分〜10月分の7カ月間にわたってインバランスの算定に誤りが発生していた。

 中部電力は1月4日の時点で誤算定による各事業者の影響を分析できておらず、1月13日までに経済産業省に報告するよう求められている。インバランス料金は発電事業者や小売電気事業者が送配電事業者に支払うもので、企業や家庭の月々の電気料金には影響を与えない。とはいえ事業者にとっては収支を修正する必要があり、問題は決して小さくない。

 システムの不具合の詳細は不明だが、エリア内の発電設備の新設・変更などに合わせてインバランスの計算式を修正する仕組みになっている模様だ。担当部署が計算式の設定を間違うと、今後も誤算定につながる可能性がある。

 誤算定を把握しやすくするために、中部電力は発電量や需要の計画値と実績値に大きな差が発生した場合に認識できるツールを開発する(図7)。2017年3月にツールの運用を開始する予定だが、これでは根本的な対策とは言えない。もしインバランスの誤算定が小さかった場合には認識できないからだ。

図7 インバランス検証ツールによる不具合の発見方法。出典:中部電力

 中部電力に限らず電力会社のシステム開発力には今後も大きな不安が残る。2020年4月には電力会社の送配電部門を分離する「発送電分離」の実施が決まっている。この段階でも電力会社の内部・外部の業務処理に新しいシステムが数多く必要になる。経済産業省には電力会社のシステム開発体制を徹底的に検査することが求められる。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.