われわれ一般人にも水素エネルギーを利用する場面が次第に増えていく。長崎県の佐世保市にあるテーマパークの「ハウステンボス」では、隣接するホテルのエネルギー源として水素を活用中だ(図11)。
2016年3月に開業した「変なホテル」の第2期棟の敷地内では、太陽光発電で水素を製造するシステムがオープンと同時に稼働した。このシステムの中には水素タンクのほかに蓄電池と燃料電池を内蔵している。燃料電池の発電能力は54kWで、年間を通じて12室分の電力をCO2フリーの水素で供給できる。
東京の都心部にはコンビニに併設した水素ステーションがある(図12)。全国各地に水素ステーションを展開する岩谷産業がセブン-イレブン・ジャパンと共同で、東京都の大田区と愛知県の刈谷市に日本で初めてコンビニ併設型の水素ステーションを2016年2月にオープンさせた。刈谷市はトヨタ自動車グループのお膝元だ。
当面は燃料電池自動車の生産台数が限られているため、水素ステーションの利用頻度は多くない。そこでセブン-イレブンの店舗にも燃料電池を設置して、水素エネルギーを活用した環境負荷低減の実証実験に取り組む計画だ。CO2フリーの水素が安価で大量に供給できる状況になれば、自動車と店舗の両方でCO2を削減できる。
福岡市では下水を処理した水と海水を組み合わせて水素を製造するユニークなプロジェクトが始まっている。国土交通省が推進する「下水道革新的技術実証事業(B-DASHプロジェクト)」の一環で2016年度から事業化の調査に着手した。
下水処理水と海水では含まれる塩分の濃度に差がある。2種類の液体の塩分濃度差によって「逆電気透析」と呼ぶ現象が起こり、電力を発生しながら水素を作り出す仕組みだ(図13)。この方法は海水から食塩を製造する技術を応用したもので、高純度の水素ガスを製造することができる。
福岡市に本社がある正興電機製作所が山口大学と日本下水道事業団と共同で開発プロジェクトを進めて、2030年に水素製造システムの実用化を目指している。下水処理場は処理水を海に放流するために海の近くに立地するケースが多く、海水を取り込みやすい場所にある。
すでに福岡市内の下水処理場では下水の汚泥から水素を製造して、燃料電池自動車に供給する世界初の水素ステーションが2015年3月に稼働している(図14)。下水処理水と海水を組み合わせた水素製造システムを実用化できれば、よりいっそう製造量を増やせる見込みだ。海にも近いことから、将来は燃料電池を搭載した船に水素を供給することも可能になる。
国土交通省は東京オリンピック・パラリンピックの輸送手段として燃料電池船の活用も想定して、2016年10月から安全ガイドラインの策定作業と実船による試験を開始した。試験に使うのは全長12メートルのアルミ製の小型船舶で、燃料電池と水素ボンベを搭載する(図15)。90kWの発電能力で最大11ノット(時速20キロメートル)の速度で走ることができる。
実船試験は東京湾岸にある東京海洋大学から半径10海里(約18.5キロメートル)の範囲で実施する。安全性を検証しながら利用方法をガイドラインに反映して、東京オリンピック・パラリンピックでは海上でも水素エネルギーを利用できるようにする計画だ。世界が注目する一大イベントで日本の水素社会の先進性をアピールする。
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