契約を変更した需要家が満足した理由は明快だ。毎月の電気料金が従来よりも安くなったことが何よりも大きく、満足度の高い需要家の5割以上が理由に挙げている(図6)。次いで多いのは「電力供給が安定している(停電などの心配がない)」という点で、契約を変更した需要家でも安定供給に不安があったことを示している。電力を供給する仕組みを一般に周知するまでには時間がかかる。
電力・ガス取引監視等委員会は電力会社と新電力の販売電力量・販売額をもとに、家庭向けの低圧電灯の平均単価を比較している。2016年9月の時点では、電力会社の規制料金の単価は1kWh(キロワット時)あたり21.6円だったのに対して、新電力の平均単価は20.5円で安かった(図7)。その差は1.1円で、標準的な家庭の使用量(月間300kWh)に当てはめると月額330円の差になる。
全国で最も競争が激しい東京電力の管内では、新電力が獲得した低圧電灯のシェアの86%を上位6社が占めている。東京ガス(ずっとも電気)、JXエネルギー(ENEOSでんき)、KDDI(auでんき)、東急パワーサプライ(東急でんき)、サイサン(エネワンでんき)、ジュピターテレコム(J:COM電力)である。
電力・ガス取引監視等委員会が6社の電気料金を東京電力の規制料金と比較したところ、標準的な家庭の使用量よりも多い月間350kWhの場合で約5%安くなった(図8)。さらに月間の使用量が450kWhになると料金の差は約10%に拡大する。逆に250kWhを下回ると、東京電力の規制料金のほうが安い状況だ。
政府が推進する電力市場の改革プロセスの中で、小売全面自由化に続いて2020年4月に実施する発送電分離(電力会社の送配電部門の分離)の後に料金の規制を撤廃する予定だ。電力会社を含めて小売電気事業者はすべて自由料金メニューで電力を販売する一方、競争が進んでいない地域や離島を対象にした規制料金メニューを送配電事業者が提供する体制に変わる(図9)。
ただし料金規制の撤廃は各地域の競争状況を見て判断することになっている。毎月の使用量が少ない需要家に対しても安い料金で提供する新電力が全国に増えなければ、市場の改革は想定どおりに進まない。新電力が安いコストで電力を調達できる環境の整備が不可欠だ。卸電力取引市場を活性化する対策などが急がれる。
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