日本のCO2排出量は過去20年以上にわたって13〜14億トンで推移してきた。震災後の2013年度をピークに、直近の2年間で排出量は減り始めている。2030年度に26%削減(2013年度比)することが当面の目標だが、さらに2050年度までに80%削減しないと世界の共通目標に到達しない。その間にも各年度の排出量を可能な限り少なく抑えて、累積の排出量を縮小することが温暖化対策の観点では重要になる(図4)。
21世紀を通じて世界の平均気温を産業革命が起こった1860年代と比較して2℃以下に抑えるためには、1870年以降に人為的に排出したCO2の累積排出量を3兆トンに抑制する必要がある。すでに3分の2にあたる2兆トンを排出済みで、残りは1兆トンしかない。この1兆トンを「カーボンバジェット(炭素予算)」に設定して、世界各国がCO2の累積排出量をバジェット以下に抑える取り組みを続けていかなくてはならない(図5)。
カーボンバジェットを考えると、発電所のように長期にわたって一定のCO2を排出し続けるインフラを建設するにあたっては、年間ではなくて運転期間を合計した累積の排出量を考慮する必要がある(図6)。たとえば火力発電所は通常40年程度の運転を想定しているため、40年間のCO2排出量がカーボンバジェットに影響を与える。
この点でCO2排出量の多い石炭火力発電所の新設は避けるべきだ。火力発電でもCO2排出量の少ないLNG(液化天然ガス)を燃料に利用する高効率の設備を優先させる必要がある。現在は石炭の輸入価格が安いために、発電コストの点から石炭火力発電所を建設する動きが国内では活発になっている。
そこで炭素税を導入すれば、石炭火力の発電コストが上昇して新設の抑制につながる。対照的に再生可能エネルギーの発電コストが低下して導入量を拡大できる。ただし炭素税の導入にあたっては、環境省だけではなくて各省庁が一体になって推進しなければ実現はむずかしい。とりわけ産業界を所管する経済産業省の意向がカギを握っている。低炭素を理由に原子力発電を推進することも考えられるため注意が必要だ。
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