原子力小委員会がまとめたマップの作成基準は2つの体系に分かれている。1つは地質の環境特性と長期の安定性を重視した基準で、火山・地熱・断層などの活動を要件に設定して「好ましくない」場所の基準を規定した(図5)。もう1つは地層処分施設の建設・操業時や高レベル放射性廃棄物の輸送時の安全性に関する基準だ。地下と地上の堆積物の状況に加えて、輸送に欠かせない港湾からの距離を定めている。
火山の影響を避けるために、新しく活動した第四紀火山(約260万年前〜現在)の中心からの距離を基準に盛り込んだ。第四紀火山の周辺15キロメートル以内に複数の火山が分布していると、マグマの貫入・噴出の頻度が高まる(図6)。そうした地域は「好ましくない」場所であることをマップで示す。
同様に地面の隆起・侵食が長期にわたって300メートルを超えてしまう可能性がある場所も地層処分には「好ましくない」。地下に埋設した高レベル放射性廃棄物が表出してしまうからだ。最近の10万年のあいだに90メートル以上の隆起量を示す沿岸部は、海水面の変動(最大150メートル)と合わせて危険性が高い(図7)。南関東や北陸の沿岸部が該当する。
このほかに地熱の影響にも注意が必要だ。高レベル放射性廃棄物をカバーする緩衝材の温度を長期にわたって100℃以下に維持できないと、内部の放射性物質の崩壊による熱の影響を抑えられなくなる可能性がある。緩衝材の温度を100℃以下に保つためには、地中の温度を65℃以下に維持しなくてはならない。
地中の温度は場所によって勾配(深度100メートルごとの温度上昇)に差がある。地下300メートルで65℃以下になる場所の勾配は15℃/100メートル以下であることが望ましい。北海道から東北・北関東と九州の火山地帯を中心に、勾配が15℃/100メートル以上の場所が分布している(図8)。地層処分には適さない地域だ。
こうした各種の基準をもとに全国のマップを作成して、1つでも基準に該当する項目がある地域は「好ましくない特性がある」と推定する(図9)。1つも該当しない場合には「好ましい特性が確認できる可能性が相対的に高い」とみなす。何とも回りくどい表現を使うのは、マップ上で適性があると示された地域の住民からの反発を可能な限り避ける狙いがある。それほどまでに地層処分に対する国民の理解を得るのはむずかしい。
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