CIS太陽電池はガラス基板上に複数の薄膜を積み重ねた構造を採る(図2)。最下層は裏面電極、その上にバッファー層、光吸収層(CIS)、バッファー層、短冊状の表面電極を置く(補助的な層を含めると約9層になる)。「今回の技術開発でも従来と層全体の構造は変えていない」(ソーラーフロンティア)。
今回の技術開発では主に2つの層を改善した。1つは光吸収層(図2のオレンジ色の層)。成膜プロセスを改良することで、品質を改善した。「当社のCIS太陽電池では(図2にあるように)光吸収層の内部でイオウ(S)とガリウム(Ga)の分布が異なる。今回はこの組成分布を変えることで短絡電流(ISC)が向上した。品質を改善したことで欠陥が減少し、(電子と正孔の)再結合が起きにくくなった。開放電圧(VOC)にもよい影響がある」(ソーラーフロンティア)*4)。
もう1つはバッファー層だ(図2のあい色の層)。「従来と同じく上部バッファー層には亜鉛(Zn)化合物を用いているものの、より光を通しやすい材質に変更して短絡電流が高まった。こちらも開放電圧の改善につながる」(ソーラーフロンティア)。
*4) 具体的な開放電圧や短絡電流の値は、2017年6月25日から30日まで米ワシントン特別区で開催される学会「IEEE PVSC-44」で発表を予定している。
ほぼ全ての太陽電池の開発では、小面積の試作セルで新材料や新構造をまず検証する。その後、セルの面積を拡大して性能をなるべく維持しながら、製造コストを抑え、量産性を高めていく。
ソーラーフロンティアは、このような改善プロセスを図3のように説明している。まずは1cm2以下の小面積セルで変換効率を段階的に底上げしていく(青い点線)。次に30cm角のサブモジュールに開発した技術を適用(赤い点線)、最後に60cm×120cmの製品へと仕上げていく(黒い点線)。
今回の発表では、30cm角と同時に、7cm×5cm角のミニモジュールにおいても薄膜太陽電池の世界記録を達成したとする。変換効率は19.8%(ドイツFraunhofer研究所が測定)*5)。
*5) ソーラーフロンティアによれば、従来の変換効率の世界記録は18.7%(全ての薄膜太陽電池ミニモジュールを含む)。
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