液体水素で動く飛行機、実現するのか自然エネルギー(2/3 ページ)

» 2017年03月14日 13時00分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]

高圧水素よりも軽量な液化水素

 Hermans氏は複数の燃料のエネルギー密度や重量について言及しているものの、直接比較していない。そこで、ガソリンと液化水素、高圧水素について、燃料の重量と容器の重量を本誌が比較した。

 前提条件はこうだ。Hermans氏はガソリン50リットル(L)と等しいエネルギーを得るには、水素が約10キログラム(kg)必要という。これを基準にしよう。

 Hermans氏によれば10kgの高圧水素(690気圧)を蓄える自動車用タンクの重量は300〜400kg。

 ガソリン50Lの重量は約40kg(比重0.8)。ガソリン50Lを収めるタンクの重量は約20kg(乗用車の場合)。

 岩谷産業が実用化している「2000L-LH2容器」は、2000Lの液化水素を蓄えることができるタンク状の装置であり、容器の重量は約1550kg。従って、10kgの液体水素に換算すると約110kgとなる。

 以上をグラフで比較したのが、図A-1だ。

 液体水素用タンクの数値は、地上に固定するタイプのもの。Hermans氏が挙げた低い外気温という条件も考慮していない。低温を保たなければならない時間が短いことも計算に入っていない。

 図A-1に示した液体水素タンクの数値は議論の出発点となるものだ。タンクに一切の最適化がない場合に限り、ガソリン(ジェット燃料とほぼ同じ比重)と比較して重量が2倍になることが分かった*A-1)

*A-1) Hermans氏は水素吸蔵合金についても検討している。例えばランタン(La)とニッケル(Ni)を含むLaNi5H6を用いた場合、水素6kgに対して、金属部分は432kg必要になる。図A-1に示した10kgの場合は総重量が730kgとなり、これ以上の軽量化が困難なことから、航空機用としては未来がないとした。

図A-1 ガソリンと水素の利用に必要な容器と燃料の重量 ガソリン50L(水素10kg)を基準とした 出典:Hermans氏のデータ、岩谷産業が公開している数値に従って本誌が作成

自動車の未来は電気にある

 Hermans氏は他の輸送機関についても液体水素の可能性を検討した。同氏の結論はこうだ。液体水素は自動車には向かない。理由は幾つかある。飛行機と違って、燃料の取り扱いに際し、安全性が確保できないことが1つ。もう1つは、飛行機と違って燃料を「給油」してから使い切るまで時間がかかること。最新の技術を利用したとしても1日当たり、液体水素のうち1〜2%が気体状に変化してしまうこと(ボイルオフ)を同氏は指摘している。

 そのかわり、自動車の未来は電気にあるとした。電気自動車の課題として3点を挙げており、蓄電池の重量エネルギー密度、蓄電池の価格、充電時間だという。

 なかでも充電時間が課題だとした。Hermans氏は「標準的な家庭用コンセントでは最大3.5キロワット(kW)を供給できるため、1時間の走行に必要な15キロワット時(kWh)を充電するには4時間強必要だ」と指摘する。1時間当たり4時間という比率の改善が必要という指摘である。急速充電性能を高めるため、大容量キャパシタ(コンデンサー)の採用を試みるべきだという。

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