電力の切り替え率は世界有数、でも複雑なベルギーの電力市場電力自由化、先進国はこう動いた(6)(1/2 ページ)

世界には多くの電力自由化先行国が存在する。日本に先行した国々ではどういう変化が起こったのか。こうした変化を紹介するとともに日本のエネルギー産業における将来像を探る。第6回は、ベルギーの電力自由化の動向を紹介する。

» 2017年03月21日 07時00分 公開
[グザビエ・ピノン/セレクトラスマートジャパン]

 ヨーロッパの中でも小国のベルギー。人口も1100万人と東京都よりも少ない。しかしながら、その複雑な政治的構造は有名である。広く知られているように、ベルギー国内は3つの地域に分かれている。フランス語を公用語とするワロン地区、オランダ語を公用語とするフランデレン(フランダース)地域、そして両方の言語が公用語となっているブリュッセル首都圏である(ご存知の通り、NATOやEUの本部が置かれており、ブリュッセルは非常に国際的な都市としても有名である。)

 ベルギーのこのようなお国柄のため、一般家庭向けの電力市場の自由化も国全体ではなく地域単位で行われた。まず、2003年にオランダ語圏のフランデレン圏、次に2007年にフランス語圏のワロン地区とブリュッセル首都圏といった具合である。

 自由化以前は、一部の小規模エリアを除き、Electrabel社、1社がベルギーのエネルギー市場を独占していた。(ちなみに、限られた一部地域のエネルギー市場の独占企業はLuminus社。)このように、自由化以前は、この2社によってベルギーのエネルギー市場は完全に支配されていたにも関わらず、完全自由化となった2007年以来、ベルギーの電力市場は非常に競争が盛んで非常な開かれたマーケットとなった。隣国のフランスの状況とは対照的であるのが非常に興味深い。フランスではいまだにEDFが87%の市場を握っており、電気料金の切り替えが一般的な国とはいえない。

 本稿では複雑な政治事情にも関わらず、電気料金の切り替えに積極的な市場となったベルギーについて詳しく紹介する。

自由化先進国、ベルギー

 エネルギー小売り市場の自由化が行われてから既に10年経つベルギー。既に、最もエネルギー(電気・ガス)小売りの競争が活発な国の1つであるいえる。20社以上あるエネルギー小売り事業者間の競争は非常に活発なため、値下げ合戦により、近年は各社の利益率が大幅に下がってしまっている。ここまで市場がオープンになったのには、ベルギーの消費者が簡単にエネルギー会社の切り替えができるということを既によく理解しているためだ。

 各エネルギーの小売り事業者は、料金そのものでも、特徴的で革新的な料金プラン(例:再生可能エネルギー100%の電気契約プランや、ベルギーで発電された電気100%のプランなど)により顧客獲得合戦を繰り広げている。ベルギーでは昨年、2016年は、人口の15%がエネルギー(電気・ガス)契約のスイッチングを行い、世界でも切り替え率の非常に高い国の1つとなっている。

 ヨーロッパの中でも、このようにエネルギー小売り市場における競争が非常に盛んな成熟市場としては、北欧やイギリス、ドイツがあげられるが、ベルギーはこのような「北ヨーロッパ」タイプに類するといえる(南ヨーロッパ、フランス、スペインの切り替え率は依然非常に低い)。これらの「エネルギー自由化先進国」では、消費者は大いに企業間競争の恩恵にあずかり、より安いエネルギー料金への切り替えを行っている。

 もちろん、ベルギーにおいても従来の大手独占エネルギー企業が常に優位な立場にあることには、十分すぎる知名度と既存顧客を考えれば、他国となにも変わりはない。Electrabel社は依然、ベルギー市場で最も高い市場占有率を保持しており、そのシェアは48.7%となっている(2014年末時点)。

 しかしながら、お隣のフランスにおけるEDF社のシェア87%と比較すれば、いかにエネルギー小売り会社の切り替えが盛んに行われているかが理解できる。フランスでは、新電力のうちでも最も成功しているDirect Energie社であってもそのシェアは5%にとどまっている。一方、ベルギーは、Essent社、Lampiris社、Eni社そしてLuminus社など複数社が既にシェアを多く獲得している。

契約件数別ベルギー各社シェア。左が電気で右がガス。数値は2014年10月31日時点のもの(クリックで拡大) 出典:セレクトラ
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