有機単層結晶薄膜の電荷分離の様子を明らかに、太陽電池の高効率化に応用へ太陽光(1/2 ページ)

慶應義塾基礎科学・基盤工学インスティテュート(KiPAS)の渋田昌弘氏、中嶋敦氏らは、有機薄膜デバイスの構成要素であるアントラセン分子の単層結晶薄膜を室温で形成させ、光電変換過程における電荷分離の様子を明らかにすることに成功したと発表した。

» 2017年04月20日 09時00分 公開
[庄司智昭スマートジャパン]

光電変換過程における電荷分離の様子を明らかに

 有機太陽電池や有機ELデバイスなど有機薄膜による光電変換デバイスは、深刻なエネルギー問題の観点から、変換効率の向上が求められている。光電変換効率の向上には、有機薄膜内の励起子や電荷の空間的な広がりが重要なことが理論的に示されているが、従来の作製手法は室温で薄膜の均一性と結晶性を高めることに限界があるという。

画像はイメージです 出典:フィリップス エレクトロニクス ジャパン

 また光エネルギーを電流に変える光電変換の家庭を実験的に明らかにするためには、光吸収によって生成する励起子の形成から電荷生成までの過程を、フェムト秒からピコ秒といった時間分解能をもつ分光計測で明らかにすることが不可欠となる。

 慶應義塾基礎科学・基盤工学インスティテュート(KiPAS)の渋田昌弘氏、中嶋敦氏らの研究グループは、有機分子が自己組織化する現象を利用して、金属基板上に分子を規則的に配列させた有機薄膜を作製。この有機薄膜における光励起子過程をフェムト秒時間分解した光電氏分光により明らかにすることを試みた。

 これにより、有機薄膜デバイスの構成要素であるアントラセン分子の単層結晶薄膜を室温で形成させ、光電変換過程における電荷分離の様子を明らかにした。

究極的に薄く高機能な有機デバイス作製へ

 同研究では、アントラセン分子に鎖状のアルカンチオールを連結させた分子の溶液に金の基板を浸漬することで、分子同士が集合して整列することによる組織化を促進させ、アントラセン単分子薄膜を作製した(図1(ア))。この薄膜試料を走査型トンネル顕微鏡(STM)や光電子分光を用いて調べたところ、以下のような知見が得られたとする。

図1:作製したアントラセン単層結晶薄膜 (クリックで拡大) 出典:慶應義塾大学

 図1(イ)は、アントラセン修飾アルカンチオールが金基板上に自己組織化して形成した単分子膜のSTM像だ。輝点それぞれが末端のアントラセン分子に対応し、アントラセン分子が規則正しく表面に整列し、均一な有機単層膜を形成していることが分かる。この規則的な分子配列の様子は、アントラセン結晶で見られる格子間隔と一致している。

 格子間隔と一致しているのは、金表面に吸着したアルカンチオール分子の配列が幾何的に無理のない集合構造をとることで、図1(ウ)のように、末端のアントラセン分子同士が単層で結晶化したためと考えられるという。

 従来の作製方法では、室温で有機分子の結晶を作ることは困難だった。今回の成果は高い結晶性の有機薄膜が溶液に浸すだけで、室温で容易に作製可能なことを示す。同研究グループは「究極的に薄く高機能な有機デバイス作製への道を開く」と語る。

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