イギリスからは西側のアイルランドとの間にも国際連系線がある。2013年に運転を開始した「East West Interconnector」である。アイルランドは風況に恵まれていて、風力発電の開発が活発に進んでいる。2017年1月11日には、風力発電による供給量が国全体の電力需要の8割を超える水準まで跳ね上がった。それでも国際連系線でイギリスに電力を送り、需給バランスの調整に成功している(図9)。
アイルランドは面積や電力需要の規模が日本の北海道に近い。北海道でも太陽光発電や風力発電を中心に自然エネルギーの電力が拡大しているものの、需給バランスを維持する目的で導入量を抑制する動きが見られる。東北と結ぶ連系線の増強計画が進んでいるが、他国とも国際連系線でつながれば、自然エネルギーの導入量を大幅に増やすことが可能になるだろう。
国際連系線は原子力発電の依存度が高い国にもメリットを与える。イギリスに向けてフランスからも国際連系線で電力が送られている。原子力発電の比率が高いフランスでは卸電力市場のスポット価格が低い。ただし原子力発電は1基当たりの供給力が大きいために、1基でも運転を停止すると価格が上昇してしまう。
最近の例を挙げると、フランス国内で2016年11月8日に原子力による供給力が減少して、スポット価格が急激に高くなる現象が発生した。そこで近隣諸国から安価な電力を国際連系線で輸入して、コストの上昇を抑えることができた(図10)。フランスでは電力の安定供給に欠かせない予備力の一部も国外から調達している。
こうして欧州の先進国では電力の安定供給と自然エネルギーの拡大を両立させながら、国際送電網による取引を通じて国全体の電力コストを抑制している。日本の電力市場が抱える課題の多くは、国際送電網を実現することで解決できる可能性が大きい。
連載第1回:電力を輸出入する時代へ、世界最大市場の北東アジアに
連載第3回:中国・モンゴル・ロシア間で電力を輸出入、日本に必要な制度改革
自然エネルギーを基盤とする社会の構築に向けて、政策・制度・金融・ビジネスモデルの研究や提言に取り組む公益財団法人。日本を含むアジア各国で自然エネルギーによる電力を最大限に活用できることを目的に、2016年7月に「アジア国際送電網研究会」を発足して事務局を務める。同研究会は電力系統やエネルギー政策の研究者、自然エネルギーの専門家で構成。世界の国際送電網を調査して、アジアにおける国際送電網の可能性について提言する。2017年4月に中間報告書をまとめた(自然エネルギー財団のWebサイトからダウンロードできる)。
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