日立マクセルは、充放電中の電解液系リチウムイオン電池内部における正極および負極内のリチウム濃度分布を、同時・同一視野内・リアルタイムに計測することに「世界で初めて」成功した。
日立マクセルは2017年5月、充放電中の電解液系リチウムイオン電池内部における正極および負極内のリチウム濃度分布を、同時・同一視野内・リアルタイムに計測することに成功したと発表した。同社調べでは「世界初」としており、発熱や発火の直接的な原因となるリチウムデンドライト*)の発生確率を大幅に低減し、大電流で使用されるリチウムイオン電池の安全性を飛躍的に向上させるための指針が得られるという。
*)リチウムデンドライト:リチウムイオン電池の充放電最中に、負極表面に発生するリチウムの樹枝状結晶。
充放電中のリチウム濃度の偏在は、電池内部の抵抗増加やリチウムデンドライトの析出などにつながり、リチウムイオン電池の充放電特性や安全性を低下させる要因となる。そのため電池動作下でのリチウム濃度分布を正確に捉えることが求められるが、正負極リチウム濃度分布の同時測定は、材料種の違いから技術的に難しい。
また従来の測定法では1つの計測に時間を要し、リチウムデンドライト発生確率の高い大電流下で、正負極を同時にリアルタイム測定するのは困難だったとする。
同社は2011年からリチウムイオン電池の「見える化」技術の研究に取り組んでおり、2013年にリチウムイオン電池開発に適用したことを発表している。従来は共焦点顕微鏡観察による色測定から、負極濃度のリアルタイム計測を可能としていた。正極の深さ方向リチウム濃度測定には、放射光施設を利用した長時間の測定が必要だった。
また正極と負極どちらも放射光施設を利用した場合、使用する材料元素種の違いにより、同時の計測は原理的に困難という。今回は独自の解析技術を用いることで、正極の“体積変化”からリチウム濃度の計測が可能だ。体積変化と色変化を1つの測定で同時に取得するため、正極と負極が相互に関係しながら反応する様子を確認できる。測定時間も最短数秒で、高い電流値での充放電変化もリアルタイムに測定可能とする。
負極表面のリチウムデンドライト析出を抑制するには、発生箇所である負極の改善が行われる。同社では正負極を別々に計測し、シミュレーションなどで電池内全体のリチウムイオンの流れを捉え、そのバランスを整えることで安全性の向上を図ってきた。
今回の技術により、これまで予測できなかったリチウムデンドライト発生に対する正極の改善点を見いだし、さらなる安全性の向上を図ることが可能である。特に大電流での使用が想定されるハイブリッド車(HEV)や電気自動車(EV)のリチウムイオン電池開発分野に適用することで、より安全な長距離走行の実現が期待できるとした。
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