発送電分離で激変する電力事業の“経営”、求められる視点とは電力供給サービス(2/2 ページ)

» 2017年08月08日 07時30分 公開
[陰山遼将スマートジャパン]
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 井島氏は今後の日本の電力事業では、「高度なデータ活用による経営課題の解決が必要になる」と述べる。例えば発電事業者であれば発電コスト低減を目指し、設備稼働状況の管理や維持管理業務の効率化していく必要がある。送配電事業者は、託送料金の低減や、送配電設備の安定稼働に向けた管理業務の高度化が求められるだろう。小売電気事業者についても、顧客情報の分析およびその結果を活用した戦略立案やサービス開発が、他社との差別化において重要なポイントになりつつある。これら全てに共通するのは、さまざまな“データ”を積極的に活用していく必要があるという点だ。

 その上で同氏は、「NECのAI技術やセキュリティに関する技術、サクラメント電力公社の経営ノウハウ、Space Time Insightの技術を組み合わせていくことで、データを活用した電力事業者の次世代の経営を支援する最適なソリューションが実現できると考えている」と述べる。

電力システム改革における環境の変化(クリックで拡大) 出典:NEC

 3社協業によるサービスの提供先として、最初のターゲットとするのが、日本国内の送配電事業者だ。設備管理コストの削減や、投資計画などの意思決定の効率化への寄与を目指す「設備管理高度化ソリューション」を提案していく。

 提案は3社による専任チームが行う。NECの顧客へのヒアリング、サクラメント電力公社による仮説立案、経営目標の設定やシステムの仕様検討を目的としたワークショップなどを実施し、システムの実装はNEC、SpaceTime Insightが担う。既に一部の事業者に対してヒアリングを始めているという。「現場の運用にこだわったシステムではなく、経営システムにどう連携させていくのか、という観点でシステムを実装していく方針。上位の経営者に最適に情報提供できるようなユーザー・インタフェースを考えていきたい」(井島氏)

提案のフロー(クリックで拡大) 出典:NEC

 サクラメント電力公社はSpace Time Insightは、共同でカリフォルニア州における送配電設備の運用高度化に取り組んだ実績がある。サクラメント電力公社が約320万米ドルを投じ、配電系統を“可視化”できるシステムを構築し、運用コストの削減や、再生可能エネルギーの導入率の向上、設備計画などの意思決定の迅速化などを実現したという。日本の送配電事業者向けには、さらにNECの異種混合学習技術や画像解析技術、セキュリティに関する技術などを組み合わせたソリューションの提案を行っていく。

サクラメント電力公社とSpace Time Insightによる配電系統の可視化プロジェクト(クリックで拡大) 出典:NEC

 この他、発電事業者向けの電源調達の最適化を支援するソリューション、小売電気事業者向けの顧客分析ソリューションなども拡充していく。これらのソリューションは、一般電気事業者だけでなく、地域新電力などの中小規模の事業者も対象になるという。

 さらに、電力事業者だけでなく、企業や自治体、住宅など電力需要家向けのエネルギーマネジメントソリューションの提供も視野に入れる。井島氏は「日本国内では今後、大規模なメガソーラーの普及というのはあまり見込めない状況にきていると考えている。すると、住宅などの需要家側に太陽光発電を広げていく動きが進むだろう。その場合、需要家サイドの太陽光発電の電量をどのように上手く系統側に取り込むのか、あるいはマネジメントしていくのかが重要になると考えている。この領域でもサクラメント電力公社が北米で培ってきたノウハウなどが生かせるのではないかと考えている」と、期待を語った。

 なお、これらのソリューションは、直近では国内の電力事業者をターゲットとするが、また、2019年度からはアジア・太平洋地域をはじめ、海外企業にも提案を進めていく方針だ。

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